『パッション』(原題:The Mother) 2003年、イギリス
監督:ロジャー・ミッシェル
脚本:ハニフ・クレイシ
撮影:アルウィン・カックラー
出演:アン・リード、ダニエル・クレイグ、スティーブン・マッキントッシュ、キャスリン・ブラッドショウ、
   オリバー・フォード・デイビス、アンナ・ウィルソン=ジョーンズ、ピーター・ボーン 他
粗筋:ロンドン郊外で暮らす60代の夫婦トゥーツとメイは、独立してロンドンに住んでいる
   息子や娘に会いに行くことに。ところが、トゥーツの持病が急激に悪化し、そのまま亡くなってしまう。
   シングルマザーの娘ポーラの家に身を寄せることになったメイは、ポーラが妻子ある男性ダーレンと
   不倫していることを知る。心配してポーラに別れを勧めるメイだったが、
   ダーレンの意外な優しさにメイ自身もひかれてしまう・・・

(映画☆☆☆☆、ダニクレ度☆☆☆☆☆)

ロジャー・ミッシェル監督作なのに日本ではDVDスルーだった映画。ダニクレは主人公のメイの娘ポーラの不倫相手、ダーレン役。妻と子がいるとはいえ、なかなか複雑な環境。すでに家庭は壊れていて、彼は部屋に入れず車で寝泊まりしている状態だという。どうして離婚しないのかというと、愛する子供のためだという。

彼の子は自閉症。愛すべき存在で天使のようで、だけれどブロークンなんだとメイに泣き出しそうに語るダーレンは粗筋にもあるように、本当に意外にも優しい人。冒頭に『東京物語』よろしく老夫婦を何気に邪魔に感じている息子夫婦に「誰でも歳をとり、邪魔者に・・」と言うんですよね。粗野に見えて繊細で色んなことに気が付くし、誰のことも拒否しない。トゥーツが亡くなる前に唯一彼を笑顔にしたのもダーレンだった。

そうなんだよね、誰に対しても受け入れてあげるんだよな、この人は。仕事だって頑張っている。とても丁寧だねと言われると(この温室は)老後にも使えるように丁寧に仕上げないとねと笑う。髭もじゃの中で笑う笑顔が、なんだかいいと思い、あぁ、好きになっちゃうよなって。色っぽいんだよな、なんだよ、困る(笑)

メイに対してもランチして外で詩を見せてあげたり、肉体関係だけではなく普段のやりとりもイイ感じで「このアバズレ」みたいに言って「そんなこと言われるの初めて」みたいなあの場面、なんか好きだったよ。思えば彼はポーラが書く小説みたいなものも、読んでと言われるままに読んで褒めてあげていた。彼の欲求は誰も受け止めてくれないのに、彼には色んな人が色んなボールを投げてくる。それをキャッチしまくっていた人だったから、メイの息子でありポーラの兄の家で老後も使えるようにと丁寧に作っていた温室が、実はもう家は売る予定で他人の手に渡ることを真っ先に聞かされていなかった時のショックは計り知れない。

・・・たぶん、ダーレンのこと皆バカにしていたんだよね。けど、温室作るって大変な作業だよ。それを、まるで、金払ってやるんだからぐらいのノリで。作っている人の気持ち誰も考えない。ダーレンのこと見下しているから。見下さなかったのはメイだけだったと思う。でも、とうとう爆発してしまう。ヤクをやり、堕落的になり、メイに八つ当たりをして、温室をぶっ壊していた時の一連の流れ、暴れ方がリアルで、痛々しくなってきて、終いには切なくなってしまった。航空券くれたってさ、どこへも行けないんだよ、ダーレンはどこへも行けない・・

観る前はどんな映画なのかと思っていたけれど、ひとりの女性の生き方の行方やその周りの人たちのひとりひとりを細かく見つめた良い作品で、思いのほかロジャー・ミッシェル監督作の映画の中では一番好きかもしれません。ダニクレはダーレンそのもののような気がするくらい巧かったし、髭もじゃで、粗野なんだけれど、色気だけは隠せなくて、色気ダダ漏れでしたよ。それゆえにその後、どうなってしまうのか、ダーレンの人生も気になってしまったです。温室でへたりこんで泣きじゃくる背中が切なかった。まだこうなる前の時、ランチの時に芸術本をメイからプレゼントされた時の表情も忘れられない。

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