『ワニ&ジュナ 揺れる想い』   2001年・韓国

<あらすじ>
アニメーターのワニ(キム・ヒソン)は優しく明るいシナリオライターの恋人ジュナ(チュ・ジンモ)と同棲中。ところがある日、留学していたワニの義理の弟ヨンミン(チョ・スンウ)が帰国するという連絡が。ヨンミンはワニの腹違いの弟であり実は初恋の人でもあった。ヨンミンへの思いを断ち切れないでいるワニ。そしてそんな彼女を責めることもできないジュナは彼女から遠ざかろうとする。果たして2人の恋の行方は・・・
キム・ヒソン、 チュ・ジンモ、チョ・スンウ、 チェ・ガンヒ、 チェ・グァンイル、 キム・グァンニム、 イ・ヘスク、 キム・スジン、 ミン・ユンジェ、 キム・スンヒョン 他 出演
キム・ヨンギュン 監督作

©ワニ&ジュナ


「人より1時間早く生きてる気がする」

「好きな事は職業にしちゃダメだ。
 あとできっとそれがイヤになる」

ワニの思い出の中に登場するヨンミンはどこかいつも遠くを眺めているような青年。
静かで大人びていて達観していて・・ふっと、現れては消えて行く滴のような
存在しているのか、または逝ってしまった人なのか、温度が感じられないような
なんとも不思議な雰囲気があって、それが逆に魅力的だったりする。
もしかしたら、スンウさんって、このヨンミン役が彼そのものに一番近いのかなと
遠い昔にDVDスルーになってしまったこの映画を
そんな風に勝手に想像しながら、ぼんやり眺めておりました。

好きなことは職業にしちゃダメだと言うヨンミンに、ワニは言う
「ヨンミンは結婚も二番目に好きな人とするんだ?」 と。

初めての恋、初恋。
それを断ち切らなければいけなくなったあの車の中。
ヨンミンは結局、一番好きな人とは一緒になれなかった。
ワニとジュナは最後はハッピーでよかったかもしれないけれど、
どうしても、ヨンミンに思いをはせてしまうからね、切ないな。




 『ラブストーリー』   2003年・韓国・原題:THE CLASSIC

<あらすじ>
女子大生のジヘ(ソン・イェジン)は母の手紙を整理していて、数々の手紙と古い日記を見つける。その日記には母ジュヒ(ソン・イェジン)の若かりし日、父では無い人との初恋の思い出が記されていた。一方ジヘは同じ大学の演劇クラスを取り仕切るサンミン(チョ・インソン)に想いを寄せるが友人スギョンにサンミンへのメールの代筆を頼まれ、自らの想いを隠してスギョンとしてのメールを送る。母ジュヒの日記には、早くに亡くした父テス(イ・ギウ)と無二の友人であるジュナ(チョ・スンウ)との三人のクラシックな愛が記されていた。1968年の夏、ジュナは田舎の叔父の家に遊びに来たジュヒと出会い一目惚れをする。しかし、親の勧めでジュヒとの親交を深めようとするテスから手紙の代筆を頼まれたジュナはその手紙の中に自らの想いをしたためるが・・・
ソン・イェジン、チョ・スンウ、チョ・インソン、イ・ギウ、イ・サンイン  他 出演
クァク・ジェヨン 監督作

©ラブストーリー


ジュナがついた嘘。

1、テスになりすまして書いた手紙。
2、ボートが漕げるふり。
3、実は幽霊。
4、尿検査の例のブツ(虫下し飲まされ過ぎ・笑)
5、ジュヒのことを好きになってしまった気持ち。
6、ジュヒのことを好きになる以外とりえがないのに胸の奥の奥に閉まってしまったこと。
7、目が観えるふり。
8、結婚していないのにすでにしているよと言ったこと。

「ピアノを弾く少女だね、僕の家にもあるんだ。
 あれを見るとジュヒのピアノを思い出す
 あの時の君と似ているから・・」

練習した精一杯の嘘はあっという間にバレてしまった。
それでも、最後まで嘘をつき続けるのは
あまりにもジュヒを愛しすぎてしまったから。
きっとジュナは彼女の幸せを見守ってから結婚したのでしょう。
だけれど、最後は自分に嘘がつけなかったのでしょう。
流された遺灰はどこへ向かうのか。
時代を超えてジュナとジュヒの子供たちへ。
映画的な奇跡のチャンス。哀しかったジュナの思いを
せめて現代の二人には歓びにかえて叶えてほしかったから。

この映画での一番の悪役はもしかしたらテスなのかもしれません。
テスはとてもいい奴なのだけれど、いい奴ゆえにしてしまった行動が
結果的に屈折のなかったジュナの笑顔を奪い、ついには哀しいことに。
ジュナが言っていた「いい奴だから悪い」というのが忘れられない。

フロストの「さあ、窓を閉めよう」やユ・チアンの「幸福」になぞられた
ジュナからジュヒへのラブレターはどれもロマンチック。
スンウさんは古い時代の青年がとても似合う人だ。




 『マラソン』   2005年・韓国

<あらすじ>
シマウマとチョコパイが大好きな19歳のチョウォン(チョ・スンウ)は、幼少期から自閉症の障害を抱えていた。母のキョンスク(キム・ミスク)はチョウォンの世話に全精力を傾けるあまり、夫(アン・ネサン)や次男チュンウォン(ペク・ソンヒョン)のことを顧みなくなり、いつしか夫は自宅に戻らなくなっていた。そんな日々の中でキョンスクは走っている時のチョウォンが楽しそうなことに気づく。やがてハーフマラソンで3位入賞したチョウォンはフルマラソン大会への挑戦を目標にするようになる。キョンスクはちょうどチョウォンの通う育英学校に飲酒運転の罰として社会奉仕にやってきた、かつてボストンマラソンで優勝した経歴を持つソン・チョンウク(イ・ギヨン)を息子のコーチとして雇う。最初は酒びたりでやる気のないチョンウクだったが、やがてチョウォンの実直さに心を打たれ自身もマラソンへの情熱を蘇らせる。だが息子と親密になっていくチョンウクにキョンスクは逆に不信を募らせ口論となる。また弟チュンウォンが警察に補導される事件が発生してしまい・・
チョ・スンウ、キム・ミスク、イ・ギヨン、 ペク・ソンヒョン、アン・ネサン 他 出演
チョン・ユンチョル 監督作

©マラソン


「雨がザーザー降ってます」

どうしてわかってもらえないのか。母は焦っていた。
彼にすべてを正確に教えたかった。
雨はザーザーと降るということを声を出して正確に表現してほしかった。
自分は彼より1日でも後に死にたかった。
チョウォンの最期をみとってから死にたかった。

チョウォンは知っていた。動物園で捨てられそうになったことを。
母が入院した時、雨が降っていた。チョウォンは思った。
母が元気になるにはあの時自分が声にしなかった
「雨がザーザー降ってます」というのを声にしようと。

すべての場面が伏線になっている。だからたまらなく効いてくる。
涙が溢れてくる。この映画を観た時、チョ・スンウさんという俳優が怖くなってしまった。
なぜなら、個人的に身近に自閉症の人物がいたので
スンウさんが放ってくれる仕草とか症状とか、もうリアルすぎました。
当時の日本では自閉症というのをあまりにも誤解されていた。
確かに自閉症にも様々な症状があって詳しいことは自分にもわからないけれど
少なくとも心の病気ではないのです。脳の機能の関係なのです。
でも、この映画はとても普通に伝えてくれた。
自閉症とは心の病気ではなくて脳の機能障害なのです、と。
『レインマン』のダスティン・ホフマンさんにでさえ心を揺さぶられなかったのに
スンウさん、アナタの演技は演技というよりチョウォンそのものでした。
だから、怖いの。才能の狂気を感じてしまったの。と同時に震えるほど感動したのです。
何度も観るのは怖いくらい、完璧でした。あまりにも完璧すぎました。。




 『タチャ イカサマ師』   2006年・韓国

<あらすじ>
小さい工場でまじめに働いていた青年ゴニ(チョ・スンウ)は、ある日パク・ムソプ(キム・サンホ)が開いた花札の賭博に参加して3年間コツコツと貯めたお金を一瞬にして失ってしまう。それが仕組まれたイカサマ勝負だと知ったゴニは復讐を誓い、伝説のタチャ、ビョン・ギョンジャン(ペク・ユンシク)に弟子入りするが、やがてイカサマ賭博の仕掛け人マダム・チョン(キム・ヘス)と出会いピョンの元を離れる。彼女の元で腕を振るっていたゴニは、ある日ムソプと再会し、痛快な復讐を果たすが・・・
チョ・スンウ、 キム・ヘス、 ペク・ユンシク、 ユ・ヘジン、 キム・ウンス、 キム・サンホ、キム・ユンソク、 チュ・ジンモ、 キム・ギョンイク、 イ・スギョン、キム・ジョンナン  クォン・テウォン、  チョ・サンゴン 他 出演
チェ・ドンフン 監督作

©タチャ


桜の花を見上げても花の美しさより花札のサクラを思うゴニ。
もともと真面目な青年だったけれど花札賭博で人生が変わっちゃう。
伝説のタチャに弟子入りして思わぬ才能を手に入れセクシーマダムに出逢い
口が止まらぬ気のいい兄貴分と一緒に各地で活躍しているうちに
可愛い恋人に出逢い、親分を失い、最後には男気を観せて
命からがら逃げ失せ、再びどっかでひょろひょろと賭けごと三昧で生きていく。
ちょっぴり時間長めの映画なのだけれどテンポがとても楽しくて飽きない。
登場するキャラたちは誰もが個性的で印象に残る。
セクシーマダムなファムファタールのキム・ヘス姐さんが
「わたしと組めばBMWに乗れるわ」って言った後に
「BMWだって?何それ?」って、言っておられるこの時点では
まだ純朴さ残るにぃちゃんゴニなスンウさんのお尻は綺麗(笑)
そのお尻は映画初出演の『春香伝』でもお披露目しており
『ラブストーリー』でもケツを叩かれる場面でお披露目、『マラソン』でも
プールから出た時にフル○○で歩くという場面でお披露目しており
お尻をみせたら右に出るものなしな俳優としても有名に(いやいや違うって・笑)

クライマックスのアグィとの勝負で決着と思いきやラストに山場がもうひとつ。
ゴニちゃん不死身すぎないか(笑)と思いつつ、これもまた映画の楽しさ。
伝説のタチャでゴニの親分ペク・ユンシクさんがゴニとの別れ際に
「この世界には永遠の敵も友もいない」と言う。それが最後まで効いてくるのだ。
それにしてもスンウさん、こんな軽めの男の役も似合うんだなあ。
ニヤつきながらもどこか憎めない感じのゴニを巧演しておりました。
個人的には恋人役のイ・スギョンさんにキスした時に
おでこをゴッツンという場面が地味に好きであります(笑)
それから、気のいい兄貴分ユ・ヘジンさんとのバディぶりもいい感じだったので
またこのコンビで何か観たいですね。




 『桃の木 哀しき双子の物語』   2012年・韓国

<あらすじ>
生まれてから離れる事が出来ないサンヒョン(チョ・スンウ)とドンヒョン(リュ・ドックァン)の結合兄弟。 ふたりは30年の間、世間に出ることなく父親(チェ・イルファ)と暮らしていた。従順的なサンヒョンとは違って、ドンヒョンは本を読みながら小説家を夢見る。 そんなドンヒョンのために父は、偶然街で出会ったスンア(ナム・サンミ)にドンヒョンの手伝いを頼む。そして、ドンヒョンの本が世間で話題になるが・・・
チョ・スンウ、 リュ・ドックァン、 ナム・サンミ、 チェ・イルファ、 イ・ジュニョク、 ソ・ヒョンジン、 キム・ヘナ、 チョン・ミラ、 ソン・ヨンスン、 シン・ヘジョン、 チョン・ドンギュ、 ペク・キョンミン、 チョン・ユンソク、 キム・ヨンフン 他 出演
ク・ヘソン 監督作

©桃の木 哀しき双子の物語


離れたい身体がある、離れられない魂がある。
ドンヒョンが息をする時、サンヒョンは息をつぶす。
ドンヒョンが空を見上げる時、サンヒョンは地べたを見つめる。
ドンヒョンが顔を外に出す時、サンヒョンはフードの暗闇の中。
ドンヒョンが現実逃避をしてしまう時、
その反対側の現実を観るのは、サンヒョン。

何があっても逃げられないサンヒョンは
生きているのに生きていないようにされてしまう。
存在しているのに、いないようにされてしまう。
笑いたくても声も出せず、傷ついていても泣けずに
感情があるのに、生きているのに、此処にいるのに。

ドンヒョンはサンヒョンに消えてほしかった。
彼が自分らしく生きるためには
サンヒョンが犠牲になるのは当たり前だった。
サンヒョンは知っていた ドンヒョンの思いを。
だからいつでも受け入れる準備は出来ていた。
たった一度だけ、たった一度だけ、淡い恋をしたけれど。

あんなに消えてほしかったのに、
あんなに離れたかったのに
一番大きな声で泣いた、ドンヒョン。
いつも一緒だった、ふたりでひとりだったのだ。
生きるって、命の存在って・・

いつも静かに哀しく微笑んでいる
兄のサンヒョンを演じたスンウさんは
触れたら消えてしまいそうなくらい繊細で儚い存在だった。

この映画を初めて観た時、野田さんの「半神」を思い出しました。
そして、野田さんの韓国版「半神」を東京芸術劇場に観に行った時
この映画を思いました。

ラストに流れるスンウさんの優しい歌声。
歌の内容によって、まったく違う声と声量にしてくる彼の歌は
音楽というより、演技そのもの。
いったい何通りの歌声があるのだろう。優しい声、とても。



この作品はスンウさんにとって兵役を終えてから久しぶりの映画でした。
彼は俳優仲間にもファンにもメディアにも誰にも言わず静かに入隊し
静かに兵役を終え、静かな映画に出ました。
 (公開は『パーフェクト・ゲーム』の方が先になっていますが
   制作決定と撮影そのものは『桃の木』の方が先でした)
スンウさんのことを知らないのに、なんだかスンウさんらしい・・
そんな風に思ってしまったのでした。




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