やっぱり映画は映画館だよね。
*星マークが、5:大好き、4:好き、3:キライじゃないよ、2:なんで観たのか、1:時間と金返せ

 「クー嶺街少年殺人事件」  1991年 台湾

<あらすじ>
1960年代初頭の台北。建国高校昼間部の受験に失敗して夜間部に通う小四(シャオスー)は不良グループ小公園に属する王茂(ワンマオ)や飛機(フェイジー)らといつもつるんでいた。 小四はある日、怪我をした小明(シャオミン)という少女と保健室で知り合う。彼女は小公園のボス、ハニーの女でハニーは対立するグループ217のボスと小明を奪いあい、相手を殺して姿を消していた。ハニーの不在で統制力を失った小公園は、今では中山堂を管理する父親の権力を笠に着た滑頭(ホアトウ)が幅を利かせている。 小明への淡い恋心を抱く小四だったが、ハニーが突然戻ってきたことをきっかけにグループ同士の対立は激しさを増し小四たちを巻き込んでいき・・
チャン・チェン、リサ・ヤン、ワン・チーザン、クー・ユールン、タン・チーガン、
ジョウ・ホェイクオ、リン・ホンミン、チャン・クオチュー、エイレン・ジン、
ワン・ジュエン、チャン・ハン、チアン・ショウチョン、ライ・ファンユン、
チャン・ホンユー、ワン・ゾンチェン、タン・シャオツイ、ヤン・シュンチン、
ニー・シュウジュン、ワン・ウェイミン、シュー・ミン、シュー・ミンヤン 他 出演
エドワード・ヤン 監督作



<感想>
ちいさな電球をつけた灯りがゆっくりと広がっていく。
小四が観る世界はその灯りと盗んできた
懐中電灯の灯りだけだったのだろうか。
上映時間が約4時間でインターミッションなしと知ってから
観る勇気が出ずビビっていたけれど観てしまったら
時間はあっという間だった。 それよりも何よりも
これだけの登場人物、これだけの長時間でありながら
ひとつひとつのシーンを思い出しただけで
胸がいっぱいになるほど心に残っていて
その残像は観てから時間が経てば経つほど鮮やかになっていく。
斜め上から地に差し込む柔らかい光の色気。
暗闇なのに瑞々しくて、爽やかなのに暗い泥の匂い。
静かにどこからか覗いているような、手の届かない
なんとかしたいのにどうしようも出来ない遠くから
ジクジクしながら危うい何かを眺めているようなこの気持ち・・

最初はぼんやりとしていた淡い闇がいつしか明確になっていく。
本省人と外省人、小猫王、小馬、ハニー、昼間と夜間、
かき氷、冷めた麺、腕時計、プレスリー、日本刀、
実弾がこめられていたピストル、捨てられた録音テープ、
オーデションで流す涙と苦笑い・・

「守ってあげる」と小四が言った瞬間
そのあまりにも無防備で真っ直ぐな愚かさにヒリヒリする。
対する小明は、まるで、いわさきちひろさんが描く
絵の中の少女のような透明な雰囲気がありながらも
どこか退廃的で何もかもを知っているような哀しさがある。
そうだよね、だって、彼女は世界は変わらないことを
身を持って知っているのだから。

映画の後半、その最後に向かう1時間前後に
狂気と闇が不気味みな静かさで加速していく・・
そして、絶望に辿り着いた時に思う
無駄な場面は何ひとつなかった、と。



*2017年4月の或る日、映画館で。




 「イップ・マン 継承」  2015年 香港・中国

<あらすじ>
1959年。好景気に沸く香港は、その一方で、無法地帯になりつつあった。裏社会を牛耳る最凶の不動産王・フランクによる暴挙から町を守るため、静かな達人イップ・マンは立ち上がる。だがそれは、自身の家族をも命の危険にさらすことを意味していた。さらには、武術"詠春拳"の正統をめぐって挑まれた死闘。そして・・
ドニー・イェン、リン・ホン、マックス・チャン、パトリック・タム、マイク・タイソン、
チャン・クォックワン、ケント・チェン、カリーナ・ン、レオン・カーヤン、
ルイス・チョン、サラット・カアンウィライ、ベビージョン・チョイ 他 出演
ユエン・ウーピン アクション監督
ウィルソン・イップ 監督作



<感想>
ド兄さんのイップ・マンなお姿と、川井さんの音楽を聴くと
まるで故郷に帰ったような安心感がある。
彼は色んな映画で色んな役を演じているし
(個人的には『新流星蝴蝶剣』の時の葉翔が今でも一番好き!)
全部それぞれの良さがあるけれど
イップ・マンを纏っているド兄さんを眺めているだけで
つい感極まってしまうので、どうしよう(笑)
屋台で蒸しケーキみたいなマフィンみたいなのを
ぼんやりと食べている葉問師父のお姿、かわいいなあ。
相変わらず煙草をくゆらす感じも色っぽかったなあ。
あぁ、好きです、好きすぎます(笑)

正直、前半の学校の不動産がらみのバタバタが
個人的には今一つ盛り上がらなくてちょっと退屈してしまったし
お目当てでもあったタイソンもちょこっとしか登場しないけれど
妻ウィンシンとのシーンのひとつひとつは、とても好き。
あのボタンをつけておいてのところ、彼女の可愛い抵抗
ユーモアもあるけれど逆にウィンシンの孤独を感じて切なくなったし
ふたりのあの場面での、木人の音がやんわり哀しくて沁みてきてしまった。
それと詠春拳を巡ってのチョンとのからみは見応えありで
ド兄さんの動きが美し速くて強くて惚れ惚れするのはもちろん
チョン役のマックス・チャンさんの熱くて強い動きにも痺れてしまい
このふたりの戦いは永遠に観ていたいくらい!
他にもエレベーターでのムエタイの刺客との戦いも印象的。

シリーズは、三部ぐらいで終わっておかないと
さすがに引き際が悪すぎて良くない気もしつつも
ちょこっと登場していた李小龍とのエピソードを
ガッツリと観たくなってしまったのも事実で複雑な気持ち。

とにかく、 本当に強い人は、柔らかくて、優しい。
そのことを再確認させてくれた映画でした。



*2017年4月の或る日、映画館で。




 「バーニング・オーシャン」  2016年 アメリカ

<あらすじ>
トランスオーシャン社の電気技師のマイクが愛する妻子とのしばしの別れを惜しみ、メキシコ湾沖の石油掘削施設ディープウォーター・ホライゾンに赴いた。ところが雇い主である大手石油会社の管理職ヴィドリンが工期の遅れを取り戻すために重要な安全確認テストを省略し強制稼働を指示した。そして・・・ 2010年4月20日、メキシコ湾沖の石油掘削施設ディープウォーター・ホライゾンで起こった原油流出事故を映画化。
マーク・ウォールバーグ、カート・ラッセル、ジョン・マルコヴィッチ、ジーナ・ロドリゲス、
ディラン・オブライエン、ケイト・ハドソン 他 出演
ピーター・バーグ 監督作



<感想>
事故や事件があった時、怪我人や死者の数を
あんなに大きな事故だったのに
これだけの数ですんだのは奇跡的と言う時があるけれど
でも、 ひとりでも誰かが傷つき、そして、誰かが死んでいるのだとしたら
数が少なかったからって奇跡的にはならない。
そんなことを、この映画のエンドロールを見つめながら思う。

映画そのものはとてつもなく大きな人災事故をネタにした
お決まり系の展開で 深みが足りないところもあれど、
今まで何もなかったんだし、これからも大丈夫だという
希望的観測は本当にダメだというあまりにもシンプルだけれど
あまりにも誰しもが忘れてしまうことを突きつけられる。
どんなものにも簡単な近道はない。どんな工程も外さすに
地道に安全確認をして仕事をしていくしか方法はないし
結果的に結局それが一番の近道なのだから。

それにしても爆発の場面が凄かった。
実話なので不謹慎かもしれないけれど爆発の再現力が半端なくて
きちんとそういうのを手を抜かずに作った映像の迫力を体感。
もう、それだけで説得力が生まれる、まさに海が燃えていた。
そして、管理職ヴィドリン役のマルコヴィッチに現場の主任ジミー役の
カート・ラッセルさんが 「救命ボートにのれ」と言う場面に思わずグっとくる。
だってさ、ヴィドリンのせいだよ、彼が掘削作業に必要なテスト担当者を
経費ケチって独断で帰してしまったことから始まってしまったことなのだから。
だけど、それとは関係ない。とにかく命が大切だ。

油まみれになって飛べるところがなくて逝ってしまった鳥
自然破壊、そして、作業員の方たちのかけがえのない命・・
大企業なのは経費カットのおかげだ、と
経費を削減した結果、取り返しのつかないことに。
失われたものはもう二度と戻らない。
どうか、もうこんな事故が決しておきませんように・・
そう願うのみです、心から。



*2017年4月の或る日、映画館で。




 「たかが世界の終わり」  2016年 カナダ・フランス

<あらすじ>
「もうすぐ死ぬ」と家族に伝えるために、12年ぶりに帰郷する人気作家のルイ。母のマルティーヌは息子の好きだった料理を用意し、幼い頃に別れた兄を覚えていない妹のシュザンヌは慣れないオシャレをして待っていた。浮足立つ二人と違って、素っ気なく迎える兄のアントワーヌ、彼の妻のカトリーヌはルイとは初対面だ。オードブルにメインと、まるでルイが何かを告白するのを恐れるかのように、ひたすら続く意味のない会話。戸惑いながらも、デザートの頃には打ち明けようと決意するルイ。だが、過熱していく兄の激しい言葉が頂点に達した時、それぞれが隠していた思わぬ感情がほとばしる・・・
ギャスパー・ウリエル、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、
レア・セドゥ、ナタリー・パイ 他 出演
グザヴィエ・ドラン 監督作



<感想>
たとえ、死ぬとしても。
たぶん、アタシは薄情なのだろうと思う。
だから、12年も離れていた場所に自分の死を告げに
果たして人は行くのだろうか・・とルイを冷めた視点で見つめてしまった。
だって、それはあまりにも自惚れている行動ではないだろうか。
2〜3年ならわからないでもないけれど、12年っていったら
12年前に生まれた子が12歳になる年月だよ(当り前だけど・笑)
でも、そのくらい会ってないんだよ。すでに互いの人生の中にいないでしょう。
なのに、死ぬことを伝えるためだけに12年ぶりに帰るなんて・・
確かに、ドランは少し幼稚で自惚れ気味の映画を撮る事は撮る。
クローズアップの多様も計算されてのことだとはいえ
傷を見せびらかす子供のようなところがあったりもする。
でも、逆にだからこそ、あのなんともいえない
生まれては消えていくソーダ水の泡の魅力が彼の映画にはあり
『わたしはロランス』を観た後は まるで恋におちたような気持ちになったものだった。
でも、この映画はどうだろう、なんだか何かが自分から少し遠い。

結局、ルイが呼吸をする場所など、この家にはすでになくて・・
わかっていたでしょ、ここで生きていけないから出て行ったのに
わかっていたはずなのに、つい、原点に帰ってみようと思ってしまうのが
血のつながりという怖さ、そこに囚われてしまう人間の不自由さ。

母親の悪気のなさすぎる無神経さ、差別意識や苛立ちを隠そうともしない兄、
妹とはあまりにも会わない年月がありすぎる中で
唯一、なんとなくこの家の中でのルイが感じている疎外感を
わかってくれていたのは他でもない兄嫁のカトリーヌだったのかもしれない。
彼女がワイングラスにガラスの綺麗なグラスマーカーをつけた時の
ルイと優しく繊細な空気感が流れた瞬間のあの場面、とても心に残る・・

そうして、むき出しの胸くそ悪い態度のせいで
どうしてもワルモノになってしまう兄のアントワーヌのことを思う。
彼の拳の傷や涙。弟への嫌悪と嫉妬と恐怖。彼にも守っていたい何かがあり
それが12年ぶりに帰ってきてしまったルイによって壊される・・
アントワーヌを演じるヴァンサン・カッセル兄貴の細長い猫背が
無理矢理狭いところで体と心を曲げて生きてきたようにも思えて
ちょっとだけ切なくなったのだ。イヤなヤツだけど
そこに行くまでに何かがあったんだよね、って
思わせるものがあるんだよ、なんだかね。

誰よりも自由に羽ばたいていたはずのルイが誰よりも家に囚われていた。
ラスト、家から飛びたてずに彼方此方ぶつかって倒れた小さな鳥が
上向きになって呼吸して死んでいく。そのあまりにもベタな表現が
自ら傷つきにわざわざ戻ってきてしまったルイと重なる。
彼の哀しみは死ぬことでしか自由になれない。
その痛みに寄り添ってみたら、遠かった映画が少しだけ近くなった気がした。



*2017年4月の或る日、映画館で。




 「ゴースト・イン・ザ・シェル」  2017年 アメリカ

<あらすじ>
近未来。ミラ・キリアン少佐は、かつて凄惨な事故に遭い脳以外は全て義体となって死のふちからよみがえった。その存在は際立っておりサイバーテロ阻止に欠かせない最強の戦士となる。少佐が指揮するエリート捜査組織公安9課は、サイバーテロ集団に果敢に立ち向かうが・・
スカーレット・ヨハンソン、ピルー・アスベック、ビートたけし、
ジュリエット・ビノシュ、マイケル・ピット、チン・ハン、ダヌーシャ・サマル、
ラザラス・ラトゥーリー、泉原豊、タワンダ・マニーモ、ピーター・フェルディナンド、
アナマリア・マリンカ、ダニエル・ヘンシャル、カイ・ファン・リエック、桃井かおり、
福島リラ、マイケル・ウィンコット、アンドリュー・モリス、アジョワ・アボアー、
クリス・オビ、ピート・テオ、山本花織 他 出演
ルパート・サンダース 監督作



<感想>
あの脚の短くて耳が長いカワイイワンコが出てきた瞬間、
押井守さん風味を感じてちょっとうれしかった(笑)
その押井監督のアニメ版『攻殻機動隊』は記憶に行動が左右されていく
脳と気持ちと体そのもののバラバラ感が哲学的すぎて
これがこうだからこうだというものが明確にない所があって
頭の悪いアタシにはさっぱりわからなくってね(爆)
なので、こんな自分でも受け入れることが出来るように
わかりやすくしてくれた実写版はありがたかった(笑)

でも、ある意味逆のものになっている気もする。
人間と機械との違いや記憶探し、自分探しという形にしていて
そういう意味ではパクられてしまった(後に影響されたと言ってくれているけれど)
『マトリックス』の方が世界観は表現されているような気がしたし
つっこみたいところは多少あるものの
スカーレット・ヨハンソンさんの背負っているものを感じた時
(もちろん、それを観ている側にそう感じさせてしまったらダメだけれど)
俳優って孤独な仕事だなとしみじみ思ってしまった。
彼女の感情の動きを悟られない深い眸が心に残るし
バトー役のピルー・アスベックさんもなかなかいい雰囲気。

だけれど、なんていうか、近未来というと
皆『ブレードランナー』になっちゃうでしょ(笑)
いい加減もう、そこから離れた映像表現が観たいよ!
そりゃ、香港な風景は大好物だけれどさ、でも、またかって思う(苦笑)
そういう意味ではリドリー・スコット監督ってスゴイよねぇ。
何もない所から、あの映像を生んだんだもの。
そして、そこから皆、全然旅立てないんだからね。



*2017年4月の或る日、映画館で。




 「キングコング 髑髏島の巨神」  2017年 アメリカ

<あらすじ>
神話の中だけの存在とされてきた髑髏島が実在することが判明し未知の生物の探索を目的とする調査遠征隊が派遣される。島内に足を踏み入れた隊員たちは、あちこちに散らばる骸骨や、岩壁に残された巨大な手跡を発見する。やがて彼らの前に神なる存在である巨大なコングが出現。隊員たちは為す術もなく凶暴な巨大生物から逃げ惑うが・・
トム・ヒドルストン、ブリー・ラーソン、サミュエル・L・ジャクソン、
ジョン・グッドマン、ジョン・C・ライリー、ジン・ティエン、トビー・ケベル、
ジョン・オーティス、コーリー・ホーキンス、ジェイソン・ミッチェル、
シェー・ウィガム、トーマス・マン、ユージン・コルデロ、
テリー・ノタリー、リチャード・ジェンキンス、 MIYAVI 他 出演
ジョーダン・ヴォート=ロバーツ 監督作



<感想>
いきなり人が飛んできて、兵士たちが戦って
そこにキングコングのデッカイ手がどかんとあって
あっという間にぺしゃんこになる人間たち。
その後もヘリコプターはぐちゃんぐちゃん。
だけれど、それはコングにしてみたら島を守るためでしかなく
島に危害を加える者に対して反応しているだけ。

ヘリコプターをはじめ全体的に『地獄の黙示録』していて
いっそ『地獄の黙示録 キングコング編』っていう
タイトルでも全然OKなのではというくらいで
映画観ながら脳内で「ワルキューレの騎行」とか
「The End」が鳴り続けていて脳みそが忙しかったです(笑)

とにかく今までとは全然違う、キングコング。
コング番長的な島を守る親分肌なところや、
色んな怪獣とバトルしている姿とか最後のバトルとかも
背負い投げみたいな渋い技とかもあったり、
最後はアッパーカウンターみたいなので決めるし
もう、単純に楽しい。胸たたいて叫ぶとことかもカッコイイ。

こういう強いコングが観たかった。
美人さんに恋して叶わぬ夢となり
人間に捉えられ哀しいことになるのではなくて
島を守るコング、強いコング兄ぃ!の方が全然楽しい。

人間の中では第二次世界大戦中に髑髏島に不時着して
そのまま取り残されていた戦闘機パイロットマーロウを演じていた
ジョン・C・ライリーさんが「不名誉よりも死を」と言い放ち
形見の日本刀で戦ったり、ちょいちょいツボを地味に刺激してきて
エンドロールのエピローグもいい感じでコング兄貴以外では
思いのほか一番目立っていました。もちろんサミュエルさん達も
存在感濃いしジェンキンスおじさまも ちょこっと登場してくれてニヤリ。
そして、エンドロールの後、最後の最後に嬉しいオマケ。
これは楽しみでしょう。早く観たい!



*2017年4月の或る日、映画館で。




 「ムーンライト」  2016年 アメリカ

<あらすじ>
名前はシャロン、あだ名はリトル。内気な性格で学校ではいじめっ子たちから標的にされるなか、同級生のケヴィンだけが唯一の友だちだった。高校生になってもそんな日々が続いていたある日の夜、月明かりが輝く浜辺で、シャロンとケヴィンは初めてお互いの心に触れる。しかし、ある裏切りに遭い2人は別々の道へと進むが・・。「In Moonlight Blck Boys Look Blue 」という舞台戯曲の映画化。
トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホーランド、アシュトン・サンダース、
ジャレル・ジェローム、アレックス・ヒバート、ジェイデン・パイナー、
マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス、ジャネール・モネイ 他 出演
バリー・ジェンキンス 監督作



<感想>
冒頭の手持ちカメラ風にぐるぐるなるあそこのカメラワークが
とても長く感じられて、いきなり車酔いのような感じになってしまい
三半規管に問題があるのかもしれないけれど(3Dもダメな体質なので)
ずっとこのカメラワークだったらキツイなどうしようと思っていると
そのままそれはそこで生きていくことの閉塞感やシャロンの視点とつながる。
そうこうしているうちに気がつけば映像は静かに落ち着いてきて
安心して身を任せることが出来ていた。

学校ではいじめられ家に帰ればヤク中の母親がいて
居場所がないシャロンに優しく接してくれたフアンの仕事はヤクの売人で
それをシャロンの母が買っていたという厳しい境遇でもありながらも
この映画が伝えてくれるのはシャロンの生きていく道筋と
彼のラブストーリーの行く末をそっと見つめ続けること。

自分が何者なのか。
「ドアに背を向けるな」「自分の道は自分で決めろ」と
温かく教えてくれたフアンに抱きかかえられて海を感じた少年シャロン
その海の月の下の浜辺でのシャロンとケヴィン
テレサの気どりのない優しさ、ケヴィンのシェフのおすすめ料理と音楽・・
色々な場面が淡い光のように交差するなかで
心に残っているのはシャロンに仕事の内容を聞かれ
正直に答えるフアンの泣きだしそうにうなだれた横顔の痛々しさと
ラストのシャロンとケヴィンの再会、静かな間。
というか、3部ブラック(映画は3部構成)の時のシャロンが
フアンが生きていたの?って思わせるくらいの佇まいになっていて
それまでの彼の雰囲気とは全然違うガッツリ系になっていたのに
ある場面の表情やちょっと気後れするような間をあけた話し方で
瞬時に、あぁ、シャロンなのだな・・と思えるところがあって愉しめた。

それにしても・・「Cucurrucucu Paloma」を流すんだもんなあ、
カーウァイ好きにはたまらんでしょ、ずるいよ(笑)
全体的に空想的で詩的な感じが漂う。
月の光を浴びて何もかもを優しく包んでくれるよう。
その余韻をこぼさないようにそっと持ち帰りたくなるような
そんな気持ちにさせてくれました。



*2017年4月の或る日、映画館で。




 「ショコラ 君がいて、僕がいる」  2015年 フランス

<あらすじ>
20世紀初頭のフランス。白人芸人フティットと黒人芸人ショコラによるかつてないコンビがサーカスで人気を呼んでいた。パリの名門ヌーヴォー・シルクの専属となった彼らは一世を風靡するが・・・・。奴隷の子として生まれ育ちながらフランス史上初の黒人芸人としてスターに登りつめたショコラと彼を支えつづけた相方のフティット。トゥールーズ=ロートレックの絵のモチーフとなり、映画の祖・リュミエール兄弟の映画にも出演した実在した伝説の芸人コンビの人生を描いた作品。
オマール・シー、ジェームス・ティエレ、クロティルド・エスム、オリヴィエ・グルメ 他 出演
ロシュデイ・ゼム 監督作



<感想>
映画を観る理由はただ好きだからとしか言いようがなかったりもしつつ
それと同時に忘れられた歴史の欠片に灯をあててくれる存在でもあり
そして、『ショコラ』はまさにそういう映画だった。

黒人というだけで資料さえも残してくれていなかったショコラ。
相方のフティットがどれだけショコラの才能を認めていたところで
もともとの道化師という事に対しての受けとり方がふたりは違っていて
フティットは仕事として芸道を究める的な感じだったけれど
奴隷だったショコラはサーカスで命からがら生きてきたわけなのだから。

黒人ということをネタにされていたあの笑いを
今は笑えないでしょ、けど、あの時代は笑っていたんだよね
(でも2年前も日本でも差別的な設定を客が笑うという演劇(コント)を観てしまって
 アタシは笑えず、なんだか憂鬱になったものがあった・・この時代でも差別ネタはある)
だから、彼が道化じゃなくて名前も本名のラファエル・パディーヤで
ストレートプレイ「オセロー」を演じたいという気持ちはとても理解できる。
「あなたは自由よ」と言ってくれたマリーの言葉は本当に真実で
それなのにたとえ見事にオセローを演じきっても観客たちは罵倒する。
警官は彼が黒人というだけで拷問する。
女性にモテモテで明るかったショコラから笑顔を奪った差別と偏見・・
ラスト、ボロボロになっていたショコラに会いに行くフティット。
カタブツで笑顔をあまり観せなかった彼がショコラが持っていた
パラパラ漫画を観て思わず笑う場面にグっときてしまう。
正反対なふたりだったけれど、最後まで
コインの表と裏のようにふたりでひとりだったんだね。

それにしてもフティットを演じるジェームズ・ティエリさんの動きが
素晴らしく独創的で印象的。オマールさんの動きも明るく軽やかで
ふたりをいつまでも眺めていたいくらいだった。
最後の最後に実際のショコラとフティットの芸が映し出された。
それを撮影したのがリュミエール兄弟で
そのフィルムが今でも残っているなんてね。すごいなあ。



*2017年3月の或る日、映画館で。




 「トリプルX:再起動」  2017年 アメリカ

<あらすじ>
世間から身を隠していたエクストリーム・スポーツ界のカリスマ、ザンダー・ケイジ。政府の極秘エージェントとなった彼は、制御不能になった軍事兵器「パンドラの箱」を奪回するため、ずば抜けたスキルを持つ仲間を集めて新たなチームを結成。世界各国の最高権力者たちをターゲットにした世界壊滅の陰謀に立ち向かう。だが、彼らの前に最強の敵ジャンが立ち塞がる・・
ヴィン・ディーゼル、ドニー・イェン、ディーピカー・パードゥコーン、クリス・ウー、
ルビー・ローズ、トニー・ジャー、ニーナ・ドブレフ、ロリー・マッキャン、
トニ・コレット、サミュエル・L・ジャクソン、ハーミオーネ・コーフィールド、
トニー・ゴンザレス、マイケル・ビスピン、ネイマール 他 出演
D・J・カルーソ 監督作



<感想>
恥ずかしながらこの映画と『ワイルドスピード』を
同じ映画だと思いこんでおりました(汗)
前作も シネコンで公開されるタイプの映画だろうから色んな媒体で
目についていたとは思うのだけれど自分の中にある観たい度指数に
まったく響かず迷いなくスルーしていたと思われます。
しかし、そんな自分が今回この映画に出逢えたのもひとえに
ド兄さん!!であります。
なので、 ただただ動くド兄さんが観たいというだけの
無知な態度で挑みましたが、大丈夫。登場人物たちの関係性とか
視覚的にヴィン・ディーゼルさんのワイルドスピードと
いったい何が違うのか全然区別つかなくても(そんなんアタシだけか・笑)
アクション+アクション×アクションてんこ盛り大会で
普通に楽しく観ることが出来ちゃう。

にしても、ド兄さんがキレキレすぎて惚れずにはいられないでしょ
相変わらずなんなの、高速で華麗で強くて。
どういうことなの、もう、ド兄さんが手を後ろ側にして
そこから撃ったり、走り蹴りしたり、動きまくるたびに
ハートが飛び散りますよ、気のせいかもだけど(笑)
速い、強い、連発、決め姿、端正顔、ピチシャツ、ニヤ顔、ド兄さん、
ド兄さんってばカッコイイ、ド兄さん素敵!と
終始ジャンなド兄さんを眺めながら映画が終わり気がつけば汗びっしょり
エンドロール眺めながらのペットボトルのお茶一気飲みが美味しかった(笑)

あ、そういえば・・トニー・ジャーさんもいたんだけど、
ド兄さんの熱量が半端なかったので、あートニー・ジャーさんも
ダンス小僧役でいたねぇぐらいで軽くやりすごしたアタシを許してください(笑)
軽いといえば冒頭と最後のネイマールって 笑顔はチャーミングだったけれど
本当にただの顔見せゲストって感じで なんのために、、、いた?(笑)

とはいえ、 軽いノリで、
すんごいアクションをおかわり自由な展開で観せてくれる。
その場を楽しみ、いい意味でなんにも残らないのもたまにはいいね。



*2017年3月の或る日、映画館で。




 「ラ・ラ・ランド」  2016年 アメリカ

<あらすじ>
オーディションに落ちて意気消沈していた女優志望のミアは、ピアノの音色に誘われて入ったジャズバーで、ピアニストのセブことセバスチャンと最悪な出会いをする。そして後日、ミアは、あるパーティ会場のプールサイドで不機嫌そうに80年代ポップスを演奏するセブと再会。初めての会話でぶつかりあう2人だったが、互いの才能と夢に惹かれ合ううちに恋に落ちていく・・
ライアン・コズリング、エマ・ストーン、
ジョン・レジェンド、ローズマリー・デウィット、カリー・ヘルナンデス、
ジェシカ・ローテ、ソノヤ・ミズノ、J・K・シモンズ、フィン・ウィットロック 他 出演
リヌス・サンドグレン 撮影、トム・クロス 編集、ジャスティン・ハーウィッツ 音楽・作曲、
ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール 作詞、マンディ・ムーア 振付、
デイミアン・チャゼル 脚本・監督作



<感想>
エンドロールが終わっても映画と引き離されたくなくて
席を離れがたくなってしまったのは
気がつけば観ている間にセブとミアのことが
大好きになってしまっていたからなのかもしれません。
あのラストシーン。
すでにこの映画を二回観てしまっているのは
セブが、あるいはミアが想像した
もしもあの時、こうだったらあったかもしれない人生を
観客席の自分も願ってしまっていたから。
だから、なかなか気持ちが切り替えられなかった。
エンドマークにしたくなくて。いつまでも夢をみていたかった。

色々あってもミアが何気なく道で話した図書館の話を憶えていてくれたセブ。
彼が鳴らしてくれる迷惑なクラクションはここにいるよという生きている証。
互いが見つけあい、恋をして、ふたりで生きた日々。
嫌いなものが好きになり、好きな人のために妥協して
“大人”になってしまったり、酷いことを言ってしまったり、
すれ違いもあるけれど、それでも思いあっていた
互いの夢を、自分の夢を。

すべての夢追い人。
ほんの少しの狂気がみたこともない色をみせてくれるのなら
きっと、何度でも狂気の中に飛びこむのでしょう。
ミアのおばさんが凍えるセーヌ川に飛びこんだみたいに。
それは、この映画を生みおとしてしまったチャゼル監督の狂気。
あの場面も、この場面も35ミリフィルムの長回しだったと思うと
そのクレイジーさにガツンときてしまった。
(冒頭の高速道路貸し切ってのいきなりの場面からしてヤバい)

あの時、もしもこうだったら。
ピアノの音が徐々に現実に戻ってしまう時の
哀しい音色に打ちのめされてしまう。
互いに夢は叶えているはずなのに、切なくて・・
二度と巻き戻らないけれど、これでいいんだと互いに見つめ頷く。
儚くて、愛しい日々

実はミュージカル映画が苦手な自分なのに
なぜだろう、この映画は自然とうけとめることができた。
それはきっと、それぞれの気持ちに沿っている音楽やダンスだったから。
唐突感がなくて、すべての場面が粋だし、
ミアのエマ・ストーンさん、セブのライアン・コズリングさん、
もう、このふたりは本当に素敵。サントラほしい。

何度でも再会したくなる、大切にしたくなる映画が
またひとつ増えました。
夢追い人たちの狂気に思いを馳せて・・・
この映画に、ありがとう。



*2017年3月の或る日、映画館で。




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