やっぱり映画は映画館だよね。
*星マークが、5:大好き、4:好き、3:キライじゃないよ、2:なんで観たのか、1:時間と金返せ

 「ヒマラヤ 地上8000メートルの絆」  2015年 韓国

<あらすじ>
登山家オム・ホンギルは引退後、ヒマラヤ4座を共に登頂した最愛の後輩ムテクが悪天候のため、下山中に遭難死したことを知る。そこは人間が存在できない“デスゾーン”エベレスト地上8,750メートルの地。誰もが遺体回収を諦める中、ホンギルは数々の偉業を成し遂げたかつての仲間たちを集め“ヒューマン遠征隊”を結成。山頂付近の氷壁に眠るムテクと彼を待つ家族のため、最も危険で困難な登攀に挑む・・
ファン・ジョンミン、チョンウ、チョ・ソンハ、キム・イングォン、
ラ・ミラン、キム・ウォネ、イ・ヘヨン、チョン・ベス、チョン・ユミ、ユソン 他 出演
イ・ソクフン 監督作



<感想>
正直に言うと、山岳映画で面白いものは少ないと思っている。
まず、共感できないことが多い。
観ていて心がイマイチ揺さぶられないのは
大変なのわかっているのに勝手に登ったんだから、
別に知らないよ、と、思わせてしまうところが大きい。
確かに生死が描かれるとひとりひとりの命のことを思えば
辛い気持ちにはなることはあるのだけれど
基本的に今一つのれないことが多いのだった。
それなのに、なぜか、この映画では心が揺さぶられてしまった。
実在の伝説の登山家オム・ホンギルさんのことや
彼らが記録に残らない命がけの登攀に挑んだこと、
全然知らなかったのだけれど、カッコイイことを言うわけでも
偉そうなことを言うわけでもなく、ただ山に登りたいから登り、
そして、登ったから下りるという、そんな単純なところを
どんな映画よりも、素直に伝えてくれたので、
すーっと空気を吸いこむように自然に共感できたのだった。

前半の人情劇は王道すぎるのだけれど
映画全体に漂う微笑ましい温かさは
いつしか登場人物たち全員が愛しくなるような良心的なものなで
後半の切なさがより一層グっときてしまった。
とりわけ、伝説の登山家オム・ホンギルさんを演じる
ファン・ジョンミン兄さんがとてもよくて
彼がもともと持っているような温かい感じが全開なので
ついて行きたくなるのですよね。そうして、そういう魅力あるからこそ
あの、講演会のような時の彼の発言に思わず涙が出てきてしまうのかも。
本気でアタシも想像した。誰も助けに行けなかったムテクを
たったひとりで助けに行ったジョンボクの孤独な登山を。

ムテクたちの亡骸を回収するためだけに
命がけでヒューマン遠征隊が登攀する場面は
そこに行くまでに登場人物の皆に感情移入してしまっていたので
逆にハラハラしてしまって、行かなくても誰も責めないんじゃないかな、
もう、気持ちだけで充分なんじゃないかなと何度も思ってしまったから
最後、ムテクの大切な妻スヨンの決断の言葉に涙があふれる。
そうだよね、そうだよね・・って。

それにしても、なんだか、出てくるご飯たちが
やたらと美味しそうだったなあ。
冒頭のジョンミン兄さんが作る魔法の粉入りカレーとか(謎笑)
焼き肉とか、色々美味しそう。ナマステ〜!って言いながら
ヤカンのマッコリをグイって呑みたくなっちゃった。
ま、とにかくジョンミン兄さん、ラブ(笑)



*2016年8月の或る日、横浜シネマリンにて鑑賞




 「或る終焉」  2015年 メキシコ、フランス

<あらすじ>
デヴィッドは終末期患者の看護師をしていた。別れた妻と娘とは、息子ダンの死をきっかけに疎遠となり、一人暮らし。彼には患者の在宅看護とエクササイズに励む以外の生活はなく、患者が望む以上に彼もまた患者との親密な関係を必要としていた。 ある日デヴィッドは末期がんで苦しむマーサに安楽死を幇助して欲しいと頼まれる。患者への深い思いと、デヴィッド自身が抱える暗い過去・・・その狭間で苦悩する彼が下した壮絶な決断とは・・
ティム・ロス、サラ・サザーランド、ロビン・バートレット、マイケル・クリストファー 他 出演
ミシェル・フランコ 監督作



<感想>
ラストシーンを目撃した瞬間、うろたえてしまって
どうしていいのか、どうやって受けとめていいのか
赤信号のマークが点滅する中で、エンドロールの中で
気持ちをどこに持っていけばいいのかわからなくなり
しばらく頭と心と体が別々になってしまったような気持ちになる。

ふと、「君が最初に触れたから新しくない」とビニールから
取り出して渡してくれたタオルをつきかえしたデヴィッドを思い出す。
彼は潔癖だった。孤独で潔癖だった。
だからこそ、相手を思いやり尽くしまくるその仕事ぶり、
その、あまりにも完璧で献身的であったからこその
行く末に思いをはせてしまった。

生きること、あるひとりの人間がひとりひとりの生命に向き合う。
その潔癖までな真摯さが過去の哀しみから
最後のあの瞬間に辿り着いたのだと思うと
遅れてきた余韻がじりじりと沁み渡りしめつけてくる。
寡黙な映画の中で、とてつもない葛藤が嵐のごとく波打っていたんですね。

デヴィッドを演じるティム・ロスさんのひとつひとつの仕草が
まるで祈りのようにも観えた。命を見捨てられた人たちの生を、
いつしか敬遠されてしまう人たちの日々を
最後まで手放さないで向き合っていた彼の真摯さが忘れられない。



*2016年8月の或る日、シネマ ジャック&ベティにて鑑賞




 「シン・ゴジラ」  2016年 日本

<あらすじ>
東京湾アクアトンネルが崩落する事故が発生。首相官邸での緊急会議で内閣官房副長官・矢口蘭堂が、海中に潜む謎の生物が事故を起こした可能性を指摘する。その後、海上に巨大不明生物が出現。さらには鎌倉に上陸し、街を破壊しながら突進していく。政府の緊急対策本部は自衛隊に対し防衛出動命令を下し「ゴジラ」と名付けられた巨大不明生物に立ち向かうが・・
長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、市川実日子、犬童一心、柄本明、大杉漣、
緒方明、片桐はいり、神尾佑、國村隼、KREVA、黒田大輔、小出恵介、高良健吾、
小林隆、斎藤工、嶋田久作、諏訪太朗、高橋一生、塚本晋也、津田寛治、鶴見辰吾、
手塚とおる、中村育二、野間口徹、橋本じゅん、浜田晃、原一男、ピエール瀧、
平泉成、藤木孝、古田新太、前田敦子、松尾諭、松尾スズキ、三浦貴大、光石研、
森廉、モロ師岡、矢島健一、余貴美子、渡辺哲、野村萬斎 他 出演
樋口真嗣(監督・特技監督)、
庵野秀明(脚本・編集・総監督)作



<感想>
子供の頃からゴジラと聞くと、自然に反応して
ご飯食べ行く感覚で観にいく体質になっていた自分にとっては
今回のゴジラはとにかく新鮮だった。
もちろん、あの鳴き声はゴジラそのものなのだけれど
ひとつの映画として今まで観たゴジラの中で一番すんなりと
真っ直ぐ自然にど真ん中で受け入れて観ることが出来たのだった。
それは見知った街並みがどんどん壊されていく興奮もあったのかもしれないし
ゴジラから逃げようとする人々の反応が
思いのほかリアルなのもあったのかもしれないけれど
ゴジラはまさに「巨大生物」であり「移動しているだけ」というように、
そう、移動しているだけなのよね、あのコ(笑)
ただ、体が大きいから動くたびにぶっ壊れちゃうという感じであり、
だからこそ、強い。その強さにどうやって立ち向かい退治するのかというのを
現実的に出来る納得してしまう形で対応していくので観ていて気持ちいいのだ。

お涙ちょうだいは出てこないし、ヒーロー的な存在も登場しない、
ゴジラという存在に対しても裏側のドラマを持たせず
ただ、今起きてしまっていることに対しての対策を、集められたはみ出し者たちが
知恵を出し合い(折り紙のことは、正直わからんのだが、でも、気にしない!・笑)
最後に辿りついたのは無人電車攻撃とコンクリートのように凍結させてしまうというのが
やけに現実的で、気がつけば物語の世界にどっぷりつかり観入ってしまってた。

それは一見ゴジラではあるのだけれど、
すべてのことにつながる気がしたからというものもあって
何か問題がおきてしまった時、手に負えない得体のしれない大きな問題がおきて
絶望してしまうようなことがおきてしまった時でも、
今、自分たちが出来る最大限のことを、その細胞と知恵と経験とを
感情論や漠然としたことではなくて、数学的に答えを出すように
科学的に論じ合い、現実的に立ち向かい対応すれば
克服できるかもしれないということを夢物語ではなく、
確かなものとしての味わいをこの映画は残してくれた。
そう、それは色んな方が言っているけれど、
まさにシミュレーション的な味わいで地道にがっつり興奮するのです。

正直言うと日本映画はもうダメだと何年も思っていて
まず積極的にお金を払ってまで映画館で観るということはしなくなったし
たまに観に行って、なんとなく褒めてしまう時も大抵、
たまたま自分の大好きな俳優さん出演だったり好きな監督のもので
ちょっと増している感情なのね、なんか酷な事あまり言えんって感じで(苦笑)
けど、恥ずかしながらエヴァンゲリオンは一度も興味を持てなかったのもあり
この映画の心臓でもある総監督と脚本の庵野さんのことはあまり知らなかったし、
監督と特技監督の樋口さんにいたっては昔観た某映画の印象が
個人的にはあまりにもダメダメだったので、そんなにいい印象はなかったし、
出演俳優さんたちは好きな役者さんがいっぱい出てくるんだけれど、
彼らが出ているからといって気持ちを増すということもないというか・・
増すほど出てこないよね、皆さん・・
(あ、でも平泉さんの味わいは強く残る、ラーメン気になった・・謎笑)
なので、本当に久しぶりに、なんのシガラミもなく
まっさらな気持ちで単純にひとつの映画として
面白かったと清々しく言える映画に出逢えたこと、とても嬉しかった。
気持ち良く席を立ち、今観てきた映画のことを誰かれかまわず話したくなった。
語りたくなったのだ、文字ではなく、この声で。
そんなの、本当に本当に久しぶりだった。



*2016年7月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞




 「恋恋風塵」  1987年 台湾

<あらすじ>
1960年代末。山村で幼い頃から常に一緒に育てられた幼馴染の少年アワンと少女アフン。アワンは成績優秀だったが家が貧しく家計を助けるために台北に出て働きながら夜間学校に通っている。アフンも一年遅れて台北に来て働き始めた。大都会台北で二人の絆は強くなり何時しか互いに愛情を抱くようになる。しかし、アワンは兵役につかねばならなくなり、金門島に配属される。二人は互いに手紙を送りあうことで互いの近況を確認し合うが、いつしかアフンからの手紙は届かなくなり・・・
ワン・ジンウェン、シン・シューフェン、リー・ティエンルー、
リン・ヤン、メイ・ファン、チェン・シュウファン 他 出演
ホウ・シャオシェン 監督作



<感想>
振り返らないアフンと見つめるアワン。
好きだった。大切だった。でも、離れている日々の中で
互いの温度は違うものになっていく。

トンネルの先の緑、二人で歩く線路、風に逃げる白いスクリーン、
駅のホーム、落とした弁当、映画館の裏部屋の片隅、
『あひるを飼う家』、印刷工場、炭坑、仕立屋、やけど、
窓越しの語らい、大きすぎたシャツ、盗まれたバイク、
すれ違う思い、海辺、兵役、届かなかった手紙、
繰り返されるおじいさんの言葉・・

風は確かにふいていて、そして、塵になって飛んでいった。
大きな遠くの空の向こう側とこちら側、
ひとつひとつの映像に生きた匂いを感じるようで
胸のまん真ん中に淡く沁みいってくるような
いつまでも続くこの余韻を手放したくないけれど
持ち続けるには、たまらなく切なくて
手放したくなってくる矛盾が行ったり来たりする。
この映画を観るのは二度目だった。
でも、初めて観た時よりも今の方が動揺している。
心の真ん中の奥の奥がざわついてきてしまう。
再会しなければよかった、観なければよかった。
今更、どうしたらいいのだ、この映画を忘れてしまいたい。
そのくらい大切な大切な映画になってしまった。

もう二度と逢えないアフンとアワンが
懐かしの中に永遠に閉じ込められないように
何度も思い出そう、この映画を。



*2016年7月の或る日、シネマ ジャック&ベティにて鑑賞




 「花、香る歌」  2015年 韓国

<あらすじ>
朝鮮王朝時代末期、庶民の伝統芸能パンソリの歌い手は男性のみで、女性には許されていなかった。幼いころに母親が他界してしまったチン・チェソンは朝鮮初のパンソリ塾「桐里精舎」を開いたシン・ジェヒョと出会ったことから自分も歌い手になると心に誓う。チン・チェソンは妓楼で奉公しながら桐里精舎での練習の様子をひそかに見ていた・・
初めてパンソリの女流の唄い手になった実在したチン・チェソンの物語。
スジ、リュ・スンリョン、ソン・セビョク、
キム・ナムギル、イ・ドンフィ、アン・ジェホン 他 出演
イ・ジョンピル 監督作



<感想>
ひとりぼっちになってしまった少女が号泣していた時、
「思う存分泣きなさい、涙の後には必ず笑顔になれるから、それがパンソリだ」
そう言ってくれた人の大きな背中を追い求め夢を抱いた少女。
初めてパンソリの存在を知ったのはイム・グォンテク監督の
『春香伝』を観た時だった。その映画の中で語られていたチュニャン(春香)と
モンニョン(夢龍)の物語「春香歌」がこの映画にも登場してくれる。
パンソリとは歌というより演目という感じで物語を聴かせるという
韓国のオペラのようなものなのかもしれません、語り唄いながら、
るるるるる・・という独特な声の感じにたまらなく楽しくなり
そうして、どことなく哀感がありなんとも切なくなってくる。
女はダメだと言う中で、どうして、私にも喉がある!と変装しながら、
夢にむかって突き進むチェソンを師匠と仲間たちが支える感じがとてもいい。

人を愛したことがなければ愛する心を歌えないと言われていたチェソンが
あの日の師匠の背中を思い浮かべながら彼に告白のように伝える
「愛を抱くとは花を抱くようなもの、桃李花のような美しい花を。
 お師匠様の桃李花になりたい」という言葉が忘れられない。
波乱があり、ようやく夢が叶ったはずだった・・それなのに、それなのに。
ささやかな願いすらも引き裂く時代と出逢いの運命が哀しい。
ラストの雪のシーンが美しい。それはまるで雪の中の桃李花のように
美しい花が静かにそっと雪の中で香っていました。



*2016年5月の或る日、シネマ ジャック&ベティにて鑑賞




 「さざなみ」  2015年 イギリス

<あらすじ>
結婚45周年を祝うパーティを土曜日に控え、準備に追われていた熟年夫婦ジェフとケイト。ところがその週の月曜日、彼らのもとに1通の手紙が届く。それは、50年前に氷山で行方不明になったジェフの元恋人の遺体が発見されたというものだった。その時からジェフは過去の恋愛の記憶を反芻するようになり、妻は存在しない女への嫉妬心や夫への不信感を募らせていく。そして・・・
シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ、ジェラルディン・ジェームズ、
ドリー・ウェルズ、デビッド・シブリー、サム・アレキサンダー 他 出演
アンドリュー・ヘイ 監督作



<感想>
静かな田園の朝、余計なものを脱ぎ捨てて、
こざっぱりした聡明そうな素敵な大人の女性が
大きなワンコと一緒に歩いている。
まるで理想を画に描いたような美しい光景。
彼女には45年、一緒に暮らしてきた夫がいる。
一言で45年と言っても生まれた赤ん坊が
45歳になる歳月と思えばとても長い年月。
その積み重ねてきた年月は
たった一通の報せであっという間に崩れていく。
「僕のカチャ」ってジェフが言った瞬間の
あの一瞬観せるケイトの表情が忘れられない。

パーティの日。人前ではイイ事言って、涙まで流す夫ジェフ。
それを見つめるケイトの静かな眸の奥に色づいている暗闇。
淡々と1週間を描いているだけのようで、
ものすごい心の揺れが伝わってくる。
過去にしがみついて自己陶酔している夫。
今を生きる妻は今まで信じてきたことすべてが消えてしまった。
もう、二度と、彼のことを信じることは出来ないでしょう。
振りほどいた手。45年なんて、地に堕ちて消え去った。
同じ空気を吸うことさえ、もう、イヤだよね。

それにしても、シャーロット・ランプリング様・・スゴイ。
静かなのに波がよせてはかえす気持ちがガツンガツンと伝わってくるから
もうね、観ていて緊張した、触れたら、今にもあふれてきそう、壊れそう。
そして、もちろん、ジェフ役のトムさんもスゴイからこそ成り立つこと。
ジェフの幼稚なところというのか、色々無神経なところとか実にリアルな感触。
ほとんど、このふたりの演技だけで観せ(魅せ)きってしまう凄味。
決してオーバーアクトにならない引き算の逸品の演技たち。
ひさしぶりに堪能しました。名作、傑作。



*2016年4月の或る日、シネマ ジャック&ベティにて鑑賞




 「ルーム」  2015年 アイルランド・カナダ

<あらすじ>
5歳の誕生日をむかえたジャック。ママと二人で暮らす狭い部屋に今日も新しい朝が来た。ママがケーキを焼いてくれると聞いて、喜ぶジャック。けれど、出来上がったケーキに火のついたロウソクがないのを見たジャックは、すねて怒り出す。ママはそんなジャックを抱きしめるしかない。そう、この部屋にはロウソクだけでなく、いろんな物がない。窓さえも天窓が一つあるだけだ。 夜になると、ジャックは洋服ダンスの中で眠る。時々夜中にオールド・ニックと呼ぶ男が訪ねてきて、服や食料を置いて行く。 翌朝、部屋の電気が切られ、寒さに震えるなか、ママは真実を話す決心をする「ママの名前はジョイ、この納屋に閉じ込められて7年、外には本物の広い世界があるの」そう聞いて大混乱に陥るジャック。ふたりは脱出をすることにする。そして・・・
ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、
ウィリアム・H・メイシー、トム・マッカムス、
ショーン・ブリジャース、アマンダ・ブルジェル 他 出演
レニー・エイブラハムソン 監督作



<感想>
初めて外の空気を感じた瞬間、すべての動きが
今生きている自分と同じように進んでいる時間。
陽の光、木陰、ゆらめき・・・ホンモノのワンコが
顔を舐めて挨拶してくれた時のあの楽しく温かな感覚・・
そして、心から自然に出てくる「大好き」という言葉・・
思えば忘れていた、いつしか言葉が先になっていた。
思わず言葉が出るよりも、言葉ありきになってしまっていた。
だから、あの瞬間、涙がどどっと溢れてきて止まらなくなってしまった。
忘れていたこと、大切なことが体中をノックするような気持ちになる。
髪を切ってもらうジャックと"ばあば"を そっと遠くから覗くように、
美しいあの優しさを壊さないようにドアの隙間から眺めているような
この映画の優しい視点がたまらない、胸がいっぱい・・

7年間、耐え続けて、一か八かにかけたチャンスで
やっと解放されても、その後の世界もまた辛い。
奪われた7年間、無神経な人々。それでも生きていれば、きっと・・

ラストの「サヨナラ」もう、鍵はかけない。扉は開けておく。
これから、どこまでも行くのだ、どこまでも生きていくのだ・・
そんな穏やかさを残してくれたこの映画の後味に感動しました。
だって、絶望を越えて優しさに辿り着くなんて、思わなかったのだもの。



*2016年4月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞




 「スポットライト 世紀のスクープ」  2015年 アメリカ

<あらすじ>
2002年1月、米国の新聞ボストン・グローブがカトリック教会の信じがたい実態を報じた。数十人もの神父による児童への性的虐待を、教会が組織ぐるみで隠蔽してきた衝撃のスキャンダル。その許されざる罪は、なぜ長年黙殺されてきたのか。「スポットライト」という名の特集記事を担当する記者たちは、いかにして教会というタブーに切り込み、暗闇の中の真実を探り当てたのだろうか・・?
マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムス、
ブライアン・ダーシー・ジェームズ、リーヴ・シュレイバー、ジョン・スラッテリー、
スタンリー・トゥッチ、ビリー・クラダップ、ジェイミー・シェリダン  他 出演
トム・マッカーシー 監督作



<感想>
地道に取材を重ねる。連絡をとり、自らの足で向かい、
本人達の声を文字に残し真実を積み重ねていく。
取材を重ねれば重ねるほど、とてつもなく恐ろしいことが暴かれていく。
当り前に信じていたこと何もかもが崩れていく・・
これは、実話で、カトリック教会のことでもあるけれど
それと同時に映画を観ながら、今、自分たちが生きている
この世の中のシステムそのものだったりもするんじゃないかと思えてくる。
隠れているとんでもないこと。なんとなく皆わかっていたのに
素知らぬふりをして、気がつかないふりをして・・
自分の掌をみる。胸に手をあて、自問してみる。
何かを平気でスルーしてしまっていなかったのか、
あるいはスルーされてしまっていないだろうか
なぜ?って思ったくせに、感じなかったふりをしていなかったろうか
真実を真っ向から受けとめ見つめることを怖がっていたら
生きている意味はあるのだろうか・・
そんなことを思わせてくれた。地味だけれど、熱い魂の奥の映画。

それにしても、相変わらずマーク・ラファロしゃんが素敵である。
人間味あふれる熱い記者であった。彼が特ダネを載せるのを
我慢しなければいけなくなった時の叫びに思わず心が奪われ、落涙。
でも、それだけでは何も変えられないと冷静に時を待つ
マイケル・キートンさんにもグっとくるし、カトリックを信じていた
自分のおばあさんが傷つくのを覚悟で真実をあきらかにするために
地道に取材を続けるレイチェル・マクアダムスさんや、
調べていくうちに自分の家の近所にもレイプ魔の神父がいるかもしれないと
あそこには近づくなと子供のために書いた紙を思わず冷蔵庫に貼り付ける
B・ダーシー・ジェームズさんなどそれぞれがなんだかとてもいい。
被害者の弁護士役のスタンリー・トゥッチさんなんかも
相変わらず間違いないでしょう!な味わいの佇まい。
素晴らしい演者たちと地に足のついた実直な演出。
ドラマチックにしない分、腹の底にズシっと何か・・
ジリじわりとした何かをもらったような、そんな見応えがありました。



*2016年4月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞




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