やっぱり映画は映画館だよね。
*星マークが、5:感動!、4:好き!、3:キライじゃないよ、2:なんで観たのか、1:時間と金返せ

 「インサイダーズ 内部者たち」  2015年 韓国

<あらすじ>
財閥と政治家の癒着は巨大な腐敗権力を作り上げていた。その一連の流れを陰で操るのが策士イ・ガンヒだった。ガンヒに雇われ様々な悪事を代行してきたアン・サングは、ある日、財閥企業ミレ自動車が大統領候補への裏金を送っていた証拠となるファイルを手に入れる。それを楯にミレ自動車を脅しさらなる成功を手に入れようと企てるがしくじり失墜する。一方、裏金事件を捜査していた検事ウ・ジャンフンは裏金ファイルをアン・サングが横取りしてしまったため、捜査は難航し打ち切りに。コネや後ろ盾のない彼はすべての責任を負わされ左遷されてしまう。しかしウ・ジャンフンは諦めきれずチンピラに成り下がりながらも復讐を企てるアン・サングを追い一発逆転の告発を持ちかけるが・・・
イ・ビョンホン、チョ・スンウ、ペク・ユンシク、イ・ギョンヨン、
チョ・ジェユン、キム・ホンパ、キム・デミョン、ペ・ソンウ 他 出演
ウ・ミンホ 監督作



<感想>
映画が始まってからしばらくの間は登場人物たちの関係性が
なかなかつかめなくて、脳みその中が混乱していたのだけれど
観ているうちに気が付くと次から次へと変化する展開に無我夢中になり
とんでもなくえげつないことの連続なのに
(しかし、なんだよ、あの宴会、アホか!腐っている!・爆)
え、そうなるのか、あの場面はそういうことか!となり、
それはまるでカンプノウの悲劇のごとくロスタイムで
うぉぉ〜!ってなる感覚のようで最後のあの場面なんかは
もう、たまらん、大好きだーーー!って、叫びたくなるという
・・いや、もう、どう記していいものか・・・(笑)
これはつまり映画の教科書として初めて『スティング』を観た時と同じ
あの気持ちとも似ていて、いわゆる、ラストのオチがわかっても、
何度も観たくなるひとつの作品としての上質さや登場人物たちの魅力や
ひとつひとつのネタのエグさなど思わず声にしたくなるものばかりで
久しぶりに映画そのものの面白さを抱かせてくれるものがありました。

「映画を撮ろう」
そんなようなセリフが何度か出てくる。
登場人物たちはあらゆる汚いことのために"映画を撮る"のだ。
「公開されたら自分が助演だったと気がつくはずだ」
さて、いったい、誰が助演だったのか、誰が主役だったのか。
口から喉が出るほど言いたいことばかり。
でも、言わない。ニヤリと笑って、心の中で味を広げ愉しもう。
あぁ、今すぐもう1回観たい!いや、何度でも再会したい!!
いっそのこと、しつこいくらい続編作ってシリーズ化してほしい(笑)
そして、なぜか、なんでもないような場面に惹きつけられる。
ウ・ジャンフンの実家の本に挟まれた狭く細い場所とか
アン・サングの食べるインスタントラーメンとか焼酎とか
ちょっとした場面がなんか好き。それはキャラクターが生きている証。

この映画の宣伝文句に使われる「最後に笑うのは誰だ?」
それはきっと、この映画に出逢えた観客なのかもしれません。
少なくともアタシは久しぶりに、それこそ、この映画の前に
夢中で観て展開に嬉しく騙された映画ってなんだったろうってくらい
そのまんま騙される快感を味わいました。
映画って、こんなに単純に面白いものだったのだという
そのシンプルな娯楽性に膝を打つ。
しかも笑えないドロドロの内容なのに笑えるという粋がある。
巧みな脚本と演出、素晴らしい演技たち、
もう、他の映画を観るのが怖いくらい。
だって、ここ何年か傑作だと思っていた映画たち
全部ぶっとんじゃったからね(笑)
初めて映画というものを好きになった時の気持ち・・
それを思う存分、思い出しました。



*2016年3月の或る日、TOHOシネマズ ららぽーと横浜にて鑑賞




 「キャロル」  2015年 アメリカ

<あらすじ>
1952年ニューヨーク、クリスマスが間近に控えていた。マンハッタンにある高級百貨店フランケンバーグのおもちゃ売り場でアルバイトとして働く若きテレーズ・ベリベット。フォトグラファーに憧れてカメラを持ち歩き、恋人のリチャードから結婚を迫られてはいるが、それでも充実感を得られず何となく毎日を過ごしていた。 そんなある日、おもちゃ売り場にキャロル・エアードが6歳の娘リンディへのクリスマスプレゼントを探しに訪れた。テレーズはエレガントで美しく魅力的なキャロルから目を離すことができなかった。キャロルもその視線に気づいた。そのままキャロルの応対をするテレーズはプレゼントを一緒に選び、イブまでに届くように手配をした。その際キャロルが手袋を忘れていってしまう。テレーズはすぐに手袋を自宅へと郵送した。そして・・
ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、
カイル・チャンドラー、ジェイク・レイシー 他 出演
トッド・ヘインズ 監督作



<感想>
生まれてきた時代とか自分のおかれている環境とか
そういうのを超えて自分らしく生きるというのは
簡単なようで難しいのは、どうしても自分をとりまく
他者を無視出来ないからなのかもしれない。
口では愛していると言いながらも、自分の親と一緒に食事をしてくれて
一緒にダンスをしてくれて、まるでお飾りのように、
いいように動く自分にとって都合のいい妻という女を望む
夫という男と一緒に生きていることはあまりにもツライ。
それは逆でもそうだろう。自分の思い通りにならない
片想いのままの女と生きていることのジレンマ。
人はなんで、メンドクサイ路を選ぶのだろう。
同性愛を隠さなければいけないと思っている人からしたら
脅しのように集めてきたものでも、そんなの、
それが自分なんだからという正直さの前には吹き飛ばされていく。
愛している人が違うだけ、ただそれだけなのだから。

ひと目惚れ、視線と視線で出逢った美しい温度。
テレーズの恋心はキャロルの中で染まっていく。
この映画が放ってくれているもの、何もかもが美しくて
ひとつひとつ一時停止したくなる。でも、止めてしまったら
ふわりとどこかに流されそうな儚ささえも感じる。
総合芸術という言葉はこの映画のためにあるのではないかと思ってしまうくらい
もう、ただ眺めているだけで、成立してしまう。
映像で語る何もかもが、あらゆる皮膚から浸透していくようで
ひさしぶりに夢中だった。ただ愛し合う人たちを描いているだけなのに
こんなにも広がるのだ、丁寧に作ることの大切さが手にとるようにわかるようだった。

テレーズが覗くファインダーの向こう側は
強く美しいキャロルが微笑んでいる。自分らしく生きているキャロルがいる。
厳しい時代はただ誰かを愛しているというだけの思いさえも
葬ろうと攻撃してくるかもしれない。それはツライことだけれど
でも、彼女たちは相思相愛なのだもの、魂は幸せなのだ。
だから、愛は誰にも奪えない。正直に生きる素敵な恋人たちを
いつまでも見つめ続けたい、そんな気持ちでいっぱいになった。



*2016年2月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞




 「さらば あぶない刑事」  2016年 日本

<あらすじ>
横浜港署捜査課刑事のタカとユージは定年退職を5日後に控えながらも彼らは宿敵・銀星会の残党を追い、覚せい剤や拳銃が扱われるブラックマーケットの襲撃などを行っていた。そんな中、世界各国の闇市場や裏社会での縄張りを拡大している中南米マフィアが彼らの前に立ちはだかる。彼らの日本進出を阻止しようとするタカとユージだが、その戦いに横浜中の犯罪組織も絡んでいた。そして・・・
舘ひろし、柴田恭兵、吉川晃司、浅野温子、仲村トオル、夕輝壽太、
菜々緒、ベンガル、木の実ナナ、小林稔侍、山西道広、長谷部香苗、衣笠拳次、
伊藤洋三郎、吉沢亮、入江甚儀、片桐竜次 他 出演
村川透 監督作



<感想>
正直、タカと夏海の場面は映画館で観るには
思わず笑いそうになる内容なので全部いらないし
その上、カオルのテンションは相変わらず危険レベルだし(笑)
他にも色々つっこみたいところがありつつも、
でもね、いいの、だって、あぶ刑事だからっ!!(笑)

歳月が経っていても、カラリとカッコイイ、タカとユージ。
ユージは軽やかで愛すべきキャラだし、タカがバイク乗って
両手離して銃をぶっぱなす場面は痺れるほどカッコイイし
火だるま、車横転、バイク階段乗りなどなど子供の頃に
当り前に楽しんでいた懐かしアクションがてんこ盛りで
それだけでウレシ涙出そうでした。
あと、思いのほか、吉川晃司さんがすごく良くて
ラスボスの存在感ありまくりで、動きもいいけれど
Barでタカとの場面でお札出す仕草が好き。
とにかくいるだけでオーラあるので惹きつけられました。
彼のナンバー2役のスキンヘッドの方の動きもよくて
この二人を主役にしたアクション映画を観てみたくなったです。

ラストに、おいおい『明日に向って撃て!』状態かよ(笑)
って、なりながらも最後の最後に忘れた頃に
またひょっこりアタシたちの前に現れてくれるような
そんな終わり方になっていて気持ちよかった。
次はあのメンバーで探偵事務所するしかないよね、決まり!(笑)



*2016年2月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞




 「オデッセイ」  2015年 アメリカ

<あらすじ>
火星での有人探査中に嵐に巻き込まれた宇宙飛行士のマーク・ワトニー。乗組員はワトニーが死亡したと思い、火星を去るが、彼は生きていた。空気も水も通信手段もなく、わずかな食料しかない危機的状況で、ワトニーは生き延びようとする。一方、2億2,530万km離れた地球では、NASAと世界各国から集められた科学者たちが彼を生還させるための努力を続けていた。その一方で、ワトニーのチーム乗組員も大胆な救出ミッションを敢行しようとしていた・・・
マット・デイモン、ジェシカ・チャステイン、クリステン・ウィグ、
ジェフ・ダニエルズ、マイケル・ペーニャ、ショーン・ビーン、ケイト・マーラ、
セバスチャン・スタン、アクセル・ヘニー、キウェテル・イジョフォー、
ベネディクト・ウォン、マッケンジー・デイヴィス、ドナルド・グローヴァー、
ニック・モハメッド、チェン・シュー、エディ・コー 他 出演
リドリー・スコット 監督作



<感想>
地球から遠く離れて宇宙に独りぼっち。
どうしよう、アタシだったらあっという間に絶望してしまう。
その絶望はきっと気持ちが貧乏性だからな気もする。
ある意味、悲観した方が楽なんだ、その悲観や絶望に
幼稚な態度で甘えていれば自分自身に言い訳が出来てね。
だから、ワトニーが生きるために芋を育てるという生への積極行動に
グっと心をつかまされてしまった。それはただ能天気なわけではなく
死をきちんと受け入れているからこそ生を考えて行動できるわけで。
それを勇気があるとかそういう風に描かずにどうやったら
生きて地球に帰ることが出来るのかということを植物学者としての知識と
彼自身のユーモアを武器に等身大で描いてくれているから、
気が付くとワトニーを応援しちゃうのです。

『ゼロ・グラビティ』ではつかんでいたのに離れてしまった命たち。
でも『オデッセイ』では決して離さなかったつかんだ命。
3年前のアタシは離れてしまったことに深さを感じ涙を流したけれど
今は、決して離さなかったことに涙が出てくる。
単純に火星から帰還したこととしても清々しいのだけれど
それ以上にワトニーはもちろん皆が彼の命を手放さなかったということ。
それはすべてのことに繋がる。どんなに絶望して暗闇が心を襲ってきても
どんな場所にもジャガイモの芽が生まれるように生きることを諦めないで、
皆がアナタをつかむよ、そして、アナタ自身がアナタをつかんでいて、
というメッセージにも思えてきて、なんだか、泣けてきてしかたがないのだ。
いい映画って、シンプル。それは生きることと似ている。

無事に帰還した後、柔らかい風の中、
足元に生まれた小さな命の芽に優しく挨拶をするワトニー。
自分の命を大切にする人は、どんな命も大切にする。
観終わった後久しぶりに身体の中の汚れたものを掃除したような
そんな爽快感でいっぱいになった。
これはめちゃくちゃ素敵な映画だ、本当に。



*2016年2月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞




 「最愛の子」  2014年 香港、中国

<あらすじ>
中国・深センの街なかである日突然姿を消した3歳の息子ポンポン。両親は必死で愛する息子を捜すがその消息はつかめない。かすかな希望を胸に国内中を捜し続けて3年後ついに両親は深センから遠く離れた農村に暮らす息子を見つけ出す。だが、6歳になった彼は実の親のことを何一つ覚えておらず“最愛の母”との別れを嘆き悲しむのだった。そして・・。実際に起こった事件を基に描かれた作品。
ヴィッキー・チャオ、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、
ハオ・レイ、チャン・イー、キティ・チャン 他 出演
ピーター・チャン 監督作



<感想>
ごちゃ混ぜになっているケーブルの路地。
多くの言葉が行き交う移民街。
愛しているひとり息子ポンポンが突然いなくなる。
山奥の農村。出稼ぎに行っていた夫が連れてきた子。
誘拐してきたとは知らずに自分の子として愛情を注いでいた女性。
前半父は誘拐犯にむけてメッセージを言う
「どうか桃は食べさせないでください。(息子は)桃アレルギーなのです」
そして、後半、息子にひとめ逢いたくてやって来た農婦が言う
「桃は食べさせないで。アレルギーなの」
彼女を追い払い後ろをふりむき泣きだしながら歩く実の父。
生みの親か、育ての親か、その愛情の深さは
どちらが深いなんて誰にも言うことは出来なくて・・

前半と後半に描かれる両方の親の想い。
その間にポツリとおかれる子供の存在。
そして、彼らと出逢うあらゆる人達。そのひとつひとつが
とても丁寧に描かれているので、すべてに命の匂いがして
たまらない気持ちになってきてしまった。

一人っ子政策、格差社会、あらゆることが重なって
答えが出ない暗闇に放りこまれるラストにしばらく放心。
こんなにも愛に溢れている思いが交差しているのに
愛されることはとても幸福なはずなのに
哀しみと不安のカタマリのような壁が覆い尽くす。
その壁を壊せる術がない。
永遠に乗り越えられない日々が待っているようで。
それでも生きていれば、いつかは晴れるのだろうか、
いつかは解決するのだろうか・・
どうしたらいいんだろうね、どうしたら・・
ぐるぐると渦巻きがまわり続ける、いつまでも決着などつかない
観終わった後、自分の一部になってしまった、そんな映画でした。



*2016年2月の或る日、シネマ ジャック&ベティにて鑑賞




 「黄金のアデーレ 名画の帰還」  2015年 アメリカ、イギリス

<あらすじ>
20世紀が終わる頃、ある裁判のニュースが世界を仰天させた。アメリカに暮らすマリア・アルトマン(82歳)が、オーストリア政府を訴えたのだ。 “オーストリアのモナリザ”と称えられ、国の美術館に飾られてきたクリムトの名画〈黄金のアデーレ〉を、「私に返してほしい」という驚きの要求だった。伯母・アデーレの肖像画は、第二次世界大戦中、ナチスに略奪されたもので、正当な持ち主である自分のもとに返して欲しいというのが、彼女の主張だった。共に立ち上がったのは、駆け出し弁護士のランディ。対するオーストリア政府は、真っ向から反論。 大切なものすべてを奪われ、祖国を捨てたマリアが、クリムトの名画よりも本当に取り戻したかったものとは・・
ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、ケイティ・ホームズ、
タチアナ・マズラニー、マックス・アイアンズ 他 出演
サイモン・カーティス 監督作



<感想>
人は知らないことが山ほどあるのだと思い知らされる。
例えばどこかの美術館で名画を観たとしても
綺麗だとかスゴイだとか好きな画とか苦手な画とか思ったとしても
その画がなぜそこにあるのか、どこからやってきたのか
特に知ろうとしないと思う。ただ画をみて通り過ぎるだけ。
だから、新米弁護士のランディがトイレで思わず泣いてしまう場面は
めちゃくちゃベタなのに、共感してしまうのだった。
それはこの映画を観たアタシの気分そのものだった。
最初は好きだった映画館が閉館するから最後になんでもいいから
その時にかけてくれている映画を観ようという感じで
たまたま出逢った映画だったのに気がつけばマリアと
ランディの行く末を夢中になって観入ってしまったのでした。

オーストリアの国立美術館に所蔵されている黄金のアデーレ。
それは世界的な名画のひとつではあるけれど
マリアにとっては大好きだった伯母を描いたもので
家族が大切にしていたもので、そして、第二次世界大戦下に
ナチスに何もかも奪われてしまったもの。
彼女にとってはかけがえのない代えのきかない思い出の画。

実話をベースにしながら映画的に楽しめるように観せてくれたから
油断していた、ラスト近くふいに苦い味を呑みこんでしまった。
そうだった、その苦しみをずっと抱いて生きてきた。
彼女は何も悪くないのに、あの理不尽な歴史がなければ
何も捨てずに日々をすごしていたはずなのに。

「捨ててきた」
そう言って、小さく怯えた少女のように泣くマリア。
映画は不思議だ。観る時はすでに過去になっているものだというのに
泣いているマリアを傍で観ているような気になる。
彼女の片隅でいつも存在していた哀しみを思いながら
マリアにランディがいてよかった・・そんな風にも思った。
そして、シリアスで哀しい話なのに、全体的にどことなく温かみがあり
優しいユーモアがちりばめられていたのもよかった。



*2016年1月の或る日、シネマライズにて鑑賞




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