やっぱり映画は映画館だよね。
*星マークが、5:感動!、4:好き!、3:キライじゃないよ、2:なんで観たのか、1:時間と金返せ

 「ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女」  2014年 アメリカ(ペルシャ語)

<あらすじ>
ここはイランの何処かにあるゴーストタウン、バッド・シティ。 ジャンキー、ポン引き、娼婦…、そこは死と絶望に満ちている。 暗闇が覆い尽くす夜、町に現れる黒衣の美しい少女。静かにそして冷たく、町にはびこる悪人たちを襲うその正体は、残忍で美しい牙を持つヴァンパイア。ある夜、少女は孤独な青年と出会い、急速に魅かれあっていく。それはまるで血塗られた壮絶な世界へとふたりを導くように。そして・・
シェイラ・ヴァンド、アラシュ・マランディ、マスーカ、
モジャン・マーノ、マーシャル・マネシュ、ドミニク・レインズ、
ミラド・エグパリ、ロメ・シャダンルー、レザ・セィクソ・サファリ 他 出演
アナ・リリ・アミリプール 監督作



<感想>
出逢った瞬間、恋におちる時がある。
理由はそんなにないけれど、
ただ好きだと細胞が喜んでしまう時がある。
その人がどんな人なのかはさっぱり知らないけれど、
性格とか感じがいいとかイケメンとか佇まいとか
そんなこと全然関係ない、どうにも、ただただ好き!と。

それは観た映画にもそんな時になるものがある。
そして、うんざりするほど(笑)大好物なのだ、こういう映画が。
もう、たまらなく好き。ただそれだけ。
監督、知らない。出ている俳優さんたち、知らない。
でも、一瞬にして恋におちてしまった。
というか、まんまとひっかかったのかもね。
あの使い古されたお洒落そうな映画宣伝文句・・
デビット・リンチのような、ジャームッシュのような・・
・・っていう、アレ(笑)
そう、そのアレにデレデレしながらひっかかり、
そして実際、どこか懐かしい洒落た感じのある映画なのだ。
その懐かしさは鼻につかない品があるというのか
気どっていないのに気高さもあるという魅力。
だから、すいっと差異がなくなるような気持ちになり
素直にこの映画の世界を共有できる気がした。

ボーイ・ミーツ・ガールでガール・ミーツ・ボーイな映画でありつつ
闇と血をアートにしながら、そこにニャンコをもってくるという
似合いすぎるズルさも相まってハマちゃうでしょ、ズルいよ(笑)
アラシュ役の青年はB級アイドルだったころの
愛すべきだったジョニデのような眼差し。
すべての登場人物のなにもかもを見守った
ニャンコがどうしようもなく可愛い。その猫の眼差しと一緒に
アタシたち観客も何もかもを観ているその状況が楽しい。
洒落た映像と一緒に音もかなりいい。
音がミステリアスでワクワク感を手伝ってくれる。
そのワクワクはかなり地味なワクワクなのだけれど、
その地味さ加減が地味に絶妙。
またいつか再会したいです、この残酷で可愛い映画に。



*2015年9月の或る日、横浜シネマリンにて鑑賞




 「黒衣の刺客」  2015年 台湾、中国、香港、フランス

<あらすじ>
唐代の中国。13年前に女道士に預けられた隠娘が戻ってくる。両親は涙を流し迎え入れるが、美しく成長した彼女は暗殺者に育て上げられていた。標的は暴君の田季安。かつての許婚であった。どうしても田季安に止めを刺すことができず、隠娘は暗殺者として生きてきた自分に情愛があることに戸惑う。「なぜ殺めるのか」と、その運命を自らに問い直す。ある日、窮地に追い込まれた隠娘は、日本人青年に助けられる・・・。
日本ではディレクターズカット版での公開となりインターナショナル版ではカットされた日本での撮影シーンが含まれている。
スー・チー、チャン・チェン、シュウ・ファンイー、ニー・ターホン、
ニッキー・シエ、妻夫木聡、忽那汐里、イーサン・ルアン 他 出演
ホウ・シャオシェン 監督作



<感想>
こだわりの映像美がサクサクと隙間なく視界に飛び込んでくる。
スタンダードであるけれど時々ビスタにもなる。
詩的な灯り、虫の鳴き声、風のなびかせ方、
呼吸さえも排除したような佇まいの登場人物たちの美しさ
そうして、何より風景が美しい、夢のように美しい。
だから、この美しさにただ酔うことが出来れば
しあわせな映画時間になったのかもしれない。
でも、アタシは、切符を買い列車の時刻に間に合っていたのに
なぜかホームにとりのこされて列車に乗り遅れたような・・
そんな客のような気分になってしまった。
・・というより、目の前で
ドアが閉まるのを脱力しながら眺め見送ってしまった気分だった。
だって、不覚にも、つい、うっかり、知りたいと思ってしまったのだ。
その情はどこからくるのか?と。殺せない情。
能面のような隠娘の中にある情愛。
そこをつい深く知りたいと思ってしまったがために
どことなく自分の中で不具合が生まれてくる。
隠娘は殺人ロボットではないし、赤ん坊も殺せなかったし
根っこは優しい娘だし、殺さなければいけない田季安に対しても
かつて一緒に生きた男だから、情があるのだろうし
彼女は孤独で哀しい人なんだろうなとは漠然と思いつつも
なぜか、するすると通りすぎてしまう、全然留まってくれない、
観て感じたかった心の中に何も入ってこなかった。

たぶん、この映画そのものの美を崇拝するには
あまりにもアタシの心が狭かった。狭すぎた。
こんな映画は久しぶりだ。貶すには素晴らしく完璧な映像美すぎたし、
好きになるにはあまりにも見知らぬ他人すぎる映画だった。
好きにもなれず、嫌悪も抱けず、かといって、
もう一度観たいかと聞かれたら、今すぐはそんな気持ちになれない。

思えばアタシ、ホウちゃんの映画で好きなのは
『悲情城市』だけだったような気がした(笑)
チャン・チェンさんとスー・チーさんが大好きなので
ホウちゃんの映画は積極的に観るのだけれど皮肉にも
彼らが出ていない『悲情城市』が後にも先にも一番好き・・というか
この1本がオールタイムというくらい好きすぎるので
つい、出逢ってしまうのかもしれませんね、侯孝賢の監督作・・というだけで。
そういう意味ではスゴイです、いつまでも色褪せない『悲情城市』って。



*2015年9月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞




 「ソ満国境 15歳の夏」  2015年 日本

<あらすじ>
未會有の打撃を受けた東日本大震災から1年後の福島。15歳の敬介は仮設住宅への非難を余儀なくされていた。中学最後の夏。放送部の作品づくりができないことを残念に思う敬介と部員たちだったが突然の招待状が舞い込んでくる。見知らぬ中国北東部の小さな村から、ぜひ取材をしてほしいというのだ。期待と不安を胸に果てしない平原が広がる中国へと旅立つ敬介たち。招待主は村の長老・金成義。彼の口から語られたのは67年前、15歳だった少年たちの壮絶な体験だった・・。
1945年夏、敗戦によってソ連と満州の国境付近に置き去りにされた15歳の中学生たちの苦難をつづった田原和夫の同名手記を映画化。
田中泯、夏八木勲、六車勇登、三村和敬、柴田龍一郎、清水尚弥、吉田憲祐、
金澤美穂、木島杏奈、澤田怜央、清水尋也、大谷英子、金子昇、香山美子 他 出演
松島哲也 監督作



<感想>
戦争を終わらせるのも命がけだし、
戦争が終わってからも命がけ。戦争がすべてを奪ってしまう。

15歳で勤労動員としてソ連と満州の国境近くの
報国農場に送られた中学校の生徒120人。
彼らは終戦になり置き去りにされてしまった。
その後、ソ連軍の捕虜になり過酷な日々を経て
解放されるも、どこでも自由に行けと言われたところで
歩くことすらままならない、みんな衰弱しきっている。
それでも祖国へ帰りたいと彷徨っている時に
石頭村(石岩鎮)の村長さんをはじめ中国の農民の方たちに
助けられたという話と、福島の仮設住宅に暮らす
中学3年生の放送部の部員たちとをリンクさせた意欲作。

ただ正直言うと震災から原発問題と戦争にからめて
どちらも国が責任を放棄していることや
困っている人がいたら互いの立場を超えて助け合う尊さなど
伝えたかったのかもしれないけれど
でも、どこか道徳の時間的な作り方というか、
特に現代の部分になると説明的なセリフや
型にハマった演技が目についてしまい
映画を観たい思いはとても強かったのに、
観ようとすればするほど映画から心が離れていくような
そんな感覚におちいってしまったのです。

それでも、金成義役の田中泯さんの丁寧で静かな佇まい
彼の存在そのものの説得力が素晴らしくて
この映画から離れていきそうなアタシの心を
泯さんが何度も何度も繋ぎとめてくれました。
そして、この映画が遺作となった夏八木勲さんの
優しい雰囲気も心に残りました。

と同時に強く思う。「戦争」という言葉が
地球上から消えてほしい。誰もが知らない言葉になればいい。
震災はいつかまたおきてしまうかもしれない。
自然のことだから、アタシたちの想像を超えて
やってきてしまう。でも戦争は違う。
人間が自分たちで始めてしまうことだもの。
だから、もう、どこでも始まらないでほしい。
その言葉を二度と耳にしなくてもいいように
眼にしなくてもいいように、命をとられなくてもいいように。



*2015年9月の或る日、横浜シネマリンにて鑑賞




 「彼は秘密の女ともだち」  2014年 フランス

<あらすじ>
親友のローラを亡くし哀しみに暮れるクレール。残された夫のダヴィッドと生まれて間もない娘を守ると約束したクレールは二人の様子を見るために家を訪ねる。するとそこにはローラの服を着て娘をあやすダヴィッドの姿があった。そして・・
ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、
ラファエル・ペルソナ、イジルド・ル・ベスコ 他 出演
フランソワ・オゾン 監督作



<感想>
綺麗な花嫁。まるで死人の目を閉じるような仕草・・
と、思っていたらまさに死んでいたのだった。
棺桶の上からの画をそのままスクリーンの目の前で眺めながらの
どこか不思議で面白い映像がソワソワさせるそんな冒頭。
あっという間に映画の世界に惹きこまれてしまった。
短い場面の中に様々なことが軽快に刻まれていく。
クレールとローラのこと。ローラとダヴィッド、
ダヴィッドとクレール、そしてヴィルジニアとクレール。

本能という言い訳の洗脳なのか、生まれついた時からなのか
アタシたちは女らしく、男らしくと言われ続け
そのように強いられ育てられてしまうけれど
そもそも"らしく"って、なんなんだということ。
伝え方によってはとことんシリアスになりそうな話なのに
終始くすぐられた後の小さな笑いの後味に似たような
なんともいえない面白さでスルスル進んでいく気分になる。

女装にハマっていくダヴィッド別名ヴィルジニアが可愛い。
というか、ロマンしゃんが可愛い(笑)
クレールとショッピングに行く場面とかすごく楽しそう。
そうして、ヴィルジニアなダヴィッドに感化されて
クレールが少しずつ華やいでいくのも可愛い。

7年後。ラストは自分らしさを受け入れた
クレールとヴィルジニアなダヴィッドの自然体な笑顔。
大きくなった子供をむかえに行くところで終わる。。

いや、でも、待って。クレールとヴィルジニア的には
ハッピーなんだろうけれど、忘れちゃいけないよ
クレールの旦那ジルのことですよ。彼は確かに
無神経なことも言う時もあれど優しい人なんだよね。
ローラが残した赤ん坊をクレールと一緒に面倒をみていたし
美味しそうなご飯も自ら作ってくれるし・・
何より演じていたのがラファエル・ペルソナさんだもん!
特にスーツ姿、あのほんのりウェーブがかかった甘いヘアスタイル。
たまらんほど好みなので(笑)気になりました
彼が7年間とその後どうしていたのか。
そういう意味ではジルは映画の中でさりげなく
無視されていた可哀想な存在になる。きっとクレールは
ヴィルジニアにローラを重ねていたのだろうからね。
そんなことを思っていたら、ふと、ヴィルジニアを
昏睡から目覚めさせたあの歌、もう一度聴きたくなりました。
バーでシンガーが歌っていたのではなくて
クレールがヴィルジニアのために歌ってあげた歌声で。



*2015年8月の或る日、シネマ・ジャック&ベティにて鑑賞




 「日本のいちばん長い日」  2015年 日本

<あらすじ>
1945年8月15日に玉音放送で戦争降伏が国民に知らされるまでに何があったのか、歴史の舞台裏を描く。太平洋戦争末期の45年7月、連合国軍にポツダム宣言受諾を要求された日本は降伏か本土決戦かに揺れ、連日連夜の閣議で議論は紛糾。結論の出ないまま広島、長崎に相次いで原子爆弾が投下される。一億玉砕論も渦巻く中、阿南惟幾陸軍大臣や鈴木貫太郎首相、そして昭和天皇は決断に苦悩する。半藤一利のノンフィクション「日本のいちばん長い日 決定版」を映画化。
役所広司、本木雅弘、山ア努、堤真一、松坂桃李、
神野三鈴、中嶋しゅう、久保耐吉、小松和重、キムラ緑子、蓮佛美沙子、
大場泰正、中村育二、山路和弘、金内喜久夫、鴨川てんし、奥田達士、嵐芳三郎、
井之上隆志、木場勝己、麿赤兒、戸塚祥太、田中美央、関口晴雄、田島俊弥、
茂山茂、植本潤、宮本裕子、戸田恵梨香、野間口徹、池坊由紀、松山ケンイチ 他 出演
原田眞人 監督作



<感想>
スケール感あふれるオープニングクレジットからして
どっしりと映画世界に連れて行ってくれた。
最初の方で、阿南陸軍大臣が昭和天皇の裾を直してあげる場面。
それに対して少し嬉しそうな表情をする天皇。
そこだけで何もセリフがなくても、 すべてが伝わってくる、まさに映画的。
だから、そのままスクリーンに身をゆだねていればよかった。
思えばこんなことなかった・・そう思ったのは
つまり、アタシは正直言うと今まで戦争や軍人さんや
政治が登場する 日本映画に共感することがほとんどなかったのです。
基本的にそれらを扱っている日本の映画って美化しているものが多いし
または狂気とか叫びとか血みどろ的なことを強調するものが多くて
観ていて気持ちが白けてきてしまうことが多かったのです。
でも、この映画では、色んなことが等身大の事として
自然に伝わってくる。戦争を終わらせることの難しさ、大変さが。
気がつけばすべての登場人物に思いをはせ、自分だったら、
その立場だったらどんな行動や言動反応をするのだろう・・と、
瞬きするのも忘れそうなくらい眼に観えるものはもちろん、
観えないものも残らず受けとめたい思いで見つめてしまってた。

立場の中で板挟みになってしまった阿南陸軍大臣の苦悩と決意。
天皇の思いを受けとめ自分の政権で戦争を終わらせる、
死刑は覚悟していると腹をくくる鈴木総理。
総理の思いを受けとめ懸命に支える迫水書記官長。
戦うことだけを信じて、暴走してしまった畑中少佐。
そして、昭和天皇。こんなにも真正面から
昭和天皇を描いた日本映画は今ままでなかった。
『太陽』もあるけれど、あれは外国の映画だった。
これまでの日本映画ではタブーだったし、描いたとしても
演じている人へ配慮もあるのか後ろ姿で誰が演じているのか
わからない感じにしてあり、セリフもほとんどなかった。
そういう意味では昭和天皇をがっつり描いている初めての日本映画であり
尚且つその存在が実に自然で、これ見よがしの登場のさせかたは
一切なくて、これはスゴイなと、原田監督の本気を感じました。

それにしても、原田監督は群衆を描くのがうまいなあ。
これは春に観た『駆込み女と駆出し男』でも思ったけれど
ひとり残らず、すべての演者たちが皆いいんです。
セリフもほとんどなく少ししか映らない人たちでさえ心に残る。
だからこそ、エンドロールが流れるその時まで、
映画の中に気持ちがどっぷり浸かってしまうのだ。

映画を観終って、思うこと。
あれだけ命をかけて戦争を終わらせた人たちがいた。
だけど、今も変わらず、色んな国で紛争が絶えない。
そういう意味では戦争は終わっていないし、今こうしている間も
どこかの国で誰かが哀しい思いをしているのかもしれない。
日本も何が起きても不思議じゃない。人は繰り返す、
過ちを繰り返してしまう。始まる時は簡単に始まってしまう。
だからこそ、強く思う。絶対始めてはいけないのです、絶対に。
しかし、クーデター寸前までいっていたと知り背筋が凍りました。
サスペンスとしても見応えありでした。



*2015年8月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞



inserted by FC2 system