<あらすじ>
かつてボクシング王者に輝いたファイだったが八百長事件に関与し落ちぶれて借金取りに追われる香港を後にしてマカオのジムで下働きをする日々を送っている。クワンとシウタン親子の部屋を間借りして住むが母親のクワンは息子を溺死させたという悲しい過去があった。 一方、元大富豪の息子のスーチーは今は工事現場で働きながら破産した父親の面倒を見ている。
人生をやり直すため総合格闘技で賞金を稼ごうとジムに来たスーチーは、そこで雑用係をするファイが元王者だと知り指導を仰ぐ。
やがてふたりはタッグを組み賞金と自らの尊厳を賭けて過酷なバトルに挑んでいく。
マッチを目指してスーチーの特訓を始めたファイはクワンとシウタンの母子とも徐々に固い絆を結んでいが・・
ニック・チョン、エディ・ポン、メイ・ティン、クリスタル・リー、
アンディ・オン、ジャック・カオ 他 出演
ダンテ・ラム 監督作
<感想>
戦う理由とはなんだろう。自分のために。大切な誰かのために。
床に落ちた袋の中の少ない水で必死に息をする金魚のように生きてきた。
明日はもちろん今日、この日をこの一秒を生きるのだって大変な日々。
見知らぬ人たちに唾をはかれているような気分になる日々。
それでも戦う理由がある。沈黙の暗闇から光をみつけるために。
もう一度心の底から笑うために。過去は消せないけれど
頑張って生きていけば生きていることが嬉しくなる日がきっと来るはず。
それを、その自分自身の体で拳で自信をつかみとるのだと。
あまりの直球に、その剛速球に、それが完璧だったから
よける暇もなく思わず両手でうけとめてしまった。
うけとめなきゃよかった。
だって、こんなに深く突き刺さってしまった。
今もこの映画を思い出して泣きそうだ。
「サウンド・オブ・サイレンス」が、こんなに琴線にふれるなんて。
サイモン&ガーファンクルの懐かしの名曲をこの映画では
ダブロウスカさんという方がカバーしているのを使っていて
これがすごくハマっていました。
彼女の声がとても切なくて
ファイが黙々と訓練する場面で流れてきて
字幕で歌詞の意味がわかった瞬間、胸がしめつけられて涙、涙。
映画が音楽に助けられているのではなくて、
まさに、この映画の主人公たちそのものの音楽だったから。
健気なシウタンがファイの脚を踏んで抱きしめて
ゆらゆらダンスするような場面が忘れられない。
それを遠くから見つめているこの映画の視線はたまらなく優しい。
すべての沈黙と暗闇に
手をそっとのばして優しい光がそそぎますように。
生きてみよう、生きよう。きっと笑える日がくるから。
そんな風に思わせてくれた。思ってしまったよ。
*2015年3月の或る日、シネマ ジャック&ベティにて鑑賞