やっぱり映画は映画館だよね。
*星マークが、5:感動!!、4:とても好き、3:それなりに、2:なんで観たのか、1:時間と金返せ

 「グランド・ブダペスト・ホテル」  2013年イギリス、ドイツ

<あらすじ>
美しい山々を背に優雅に佇むヨーロッパ最高峰のグランド・ブダペストホテル。エレガントな宿泊客たちのお目当ては伝説のコンシェルジュ、グスタヴ・Hだ。彼の究極のおもてなしの秘密はマダムたちの夜のお相手も辞さない徹底したプロ意識にあった。ところがグスタヴの長年のお得意様である伯爵夫人が殺され遺言で貴重な絵画を贈られたグスタヴが容疑者にされてしまう。ヨーロッパ大陸を逃避行しながら愛弟子のベルボーイのゼロと肉親よりも固い絆を結ぶコンシェルジュの秘密結社の力を借りて謎に挑むグスタヴ。果たして自らの潔白とホテルの威信を守れるのか? 現代から60年代、そして大戦前夜の3つの時代を背景に繰り広げられる物語。
レイフ・ファインズ、トニー・レヴォロリ、F・マーレイ・エイブラハム、
マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、
ジェフ・ゴールドブラム、ハーヴェイ・カイテル、ジュード・ロウ、
ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、
ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥ、ティルダ・スウィントン、
トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン 他 出演
ウェス・アンダーソン 監督作



<感想>
思えばウェス・アンダーソン監督の映画は
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』しか観ていない。
でも、これがまたすごく面白かったので他の映画も気にしてはいたけれど
タイミングがあわずに『グランド・ブダペスト・ホテル』でようやく二本目。
それなのに始まった瞬間からウェス・アンダーソン監督節だと伝わってくる
その個性の楽しさ、細かいところにまで拘りがあって一瞬たりとも飽きない。
面白いなと思ったのはスタンダードになったりワイドになったりビスタになったり。
初めは、え?なんだ、なんだ?と思っていたのだけれど
その時の時代にあわせているんですね。

グスタヴ役のレイフ・ファインズさんがハマり役なのはもちろん、
すべての演者の方たちがめちゃくちゃよくて
マダムDを演じていたのがティルダ姐さんだったとは気がつかなかったし
個人的にはヘンケルス大尉役のエドっちことエドワード・ノートンさんを
スクリーンで久しぶりに観たので(DVDでは観ているのだけれど)
あの細いなで肩にあわせる衣装は縫い子さんも大変だったろう
カッコイイ、でも、アイツは怖いと思いながら観ておりました(笑)
ってか、デフォーさん、ニャンコ好きには辛いですよ!な場面があったり
指が・・って場面とか可愛らしい映像とは裏腹のブラックな場面がありつつも
全体的に、クスクスどこか笑いながら観ていたけれど
ラストに苦い薬を飲んだ気持ちになる。

信じていた世界。自分たちが価値があると思っていたもの。
それらはすべて、たったひとつの偏見や嫌悪というものが消し去ってしまう。
グスタヴが脱獄を考えてメンドルのパティシエールのアガサに
脱獄の道具入りのお菓子を作らせて差し入れさせた時に
刑務所の看守が他の差し入れは切ったりして中身をチェックするのに
メンドルの可憐なお菓子だけは切り刻むことが出来なかった場面は
どことなくその看守の気持ちというか美しいものは壊せないという
人間の単純な美意識みたいなものが働いたような気がしていたのだけれど
美しいお菓子は壊して食べてしまえばあっという間にお終い。
そして、破り捨ててしまった絵はもとにはもどらないし、失った命は生き返らない。
どんなことになろうともグスタヴは信じていたのかもしれない。
信じるというか根底にあるものを疑わなかったのかもしれない。
あの看守のように価値のあるものや好意のようなものは切り刻まないはずだと。
けれども、それは夢だった。人間はあっという間に野蛮になるのだから。

これだけ盛りだくさんで1時間40分という上映時間には脱帽。
エンドロールも手をぬかない。愛さずにはいられない映画。



*2014年8月の或る日、シネマジャック&ベティにて鑑賞




 「美しいひと」  2013年日本

<あらすじ>
日本に原爆が投下されてから69年。あの惨禍を生き抜いた最後の世代の人たち。彼らはあの日何を見たのか、原爆後の人生をどう生きたのか。日本人被爆者だけでなく今まであまり語られることのなかった韓国人被爆者や捕虜として被爆したオランダ人元兵士らとの対話を通して戦争とは何か人間とは何かに迫る長編ドキュメンタリー映画。
東志津 監督作



<感想>
「気を楽にもって命のある限り生きなきゃだめですよ」
映画を観終わってから、しばらく心に残っていた言葉。
それは韓国の陜川(ハプチョン)原爆被害者福祉会館で
被爆した方たちの撮影をする時に通訳として協力していた方が
李さんにむけて伝えた言葉だった。彼女は広島で生まれた。
もともと身体が不自由だった。そして7歳で被爆した。
その時のことを麻痺する身体を精一杯振り絞って教えてくれるのだけれど
母親が自分を助けてしまったから、こんな身体で生きている。
死にたいのに死にきれない。やりたいことがあっても出来ないのに
どうして生きている意味があるのかと嘆く彼女に
通訳の方はポンポンと肩をたたいて優しく笑って励ます。
そして、監督が「撮影しても大丈夫ですか?」と気遣うと
「いいんだよ、いいんだよ、上手に撮ってね」と言う。
それから、監督に「先生はべっぴんさんだね」と笑った。
韓国では他にも辛い過去を話してくれた方たちがいたのだけれど
やはり、やりたいことが出来ず部屋で独り、
皆の声を聞きながら過ごす李さんのことを思ってしまう。

オランダでは捕虜として日本に移送され強制労働させられた
多くのオランダ人の若者がいて長崎で被爆した3人の元兵士の方に話を聞く。
アイロンをかける仕草をカメラにおさめてもらう時に位置を気にしたり
美味しそうなコーヒーをいれてくれて穏やかな感じの最初の方は
厳しく辛い収容生活から解放されることを意味するので
ある意味原爆が投下されて戦争が終わってよかった、と。
どちらも辛かった、とも。確かにそうだよね、立場違えば色々思うことがある。
言葉だけでは言い尽くせない深く固く沈んでいた複雑な思い。
もうひとりの方は仲間を助けられなかったことを。
そして、もうひとり、90歳で認知症のシュカウテンさんは
息子さんたちが記憶の道しるべとなりながら、なんとか伝えようとしてくれていた。
あまりにも辛い体験だったので帰国後もトラウマを抱え続けたらしい。
彼の記憶が様々なところに飛んでいく。そして息子さんが言う
「お父さん大切なことは、あなたがあの戦争を生き抜いたということです」と。

そして、長崎。モノクロの写真の中で苦しみながら
真っ黒焦げになっている表情の傍で呆然と立ち尽くす若い女性の姿があった。
その真っ黒焦げの死骸は彼女の母親だった。
写真があまりにも悲惨なので涙は出ない。悲惨すぎて乾いてしまう。
写真の中の若い女性は龍さん。原爆で家族を失い
ひとりで頑張って生きてきた彼女には息子さんがいました。
彼は被爆者の息子というだけで差別をうけてきたそうです。
アタシにはわからない。どうして差別するのか。
だって、龍さんにしても息子さんにしても何も悪いことしてない。
いきなり原爆をおとされて被爆して後遺症と闘い辛い目にあわされている人たちを
どうして差別などするのかマジで理解に苦しんでしまう。
でも、日本人ってそういうところがある。今でも同じだ。哀しい。

最後に再び韓国へ。 そう、アタシも気にしていた李さん。
彼女が鏡をみながら麻痺する手で髪をとかしていた。
そのまま寝転んで部屋の外から聞こえるのは 誰かの誕生日のお祝いの声たち。
ふと、映画のタイトル『美しいひと』の意味を思う。
この映画に登場してくれた人たちはもちろん、
映画とは無縁でも、あの時を乗り越えて生き抜いてきた人たち、
生き抜くことそのものが美しいひとたちなのかもしれません。
「気を楽にもって命のある限り生きなきゃだめですよ」
今、その言葉がお守りのような気持ちになってくる。
何気ない言葉だったけれど、心に残っている。



*2014年8月の或る日、シネマジャック&ベティにて鑑賞




 「GODZILLA ゴジラ」  2014年アメリカ

<あらすじ>
1999年フィリピン。石炭採掘現場で謎の陥没事故が起こり現場に急行した芹沢博士とグレアム博士はそこで化石となった巨大生物の骨とそこに寄生していたかのような物体を発見する。一方日本の地方都市・雀路羅市。ここで稼働中の原子力発電所で働くアメリカ人のジョー・ブロディは発電所に近づきつつある謎の震動と電磁波に気づく。対策会議を開くべく発電所に向かったジョーとその妻サンドラ。サンドラは炉心の調査すべく原子炉へと向かい、ジョーは管制室で緊急対策会議の準備を進めるが凄まじい揺れが発電所を襲い原子炉が破損し放射線漏れが起きてしまう。ジョーはサンドラを残したまま防御壁を閉じることに。15年後息子のフォードは爆弾処理担当の軍人となっていた。久々の休暇で妻子の待つサンフランシスコに戻ったフォードは、日本から父が逮捕されたとの連絡を受け急ぎ日本へと向かう。そして・・。
アンディ・サーキス(ゴジラのモーションキャプチャ)、アーロン・テイラー=ジョンソン、
渡辺謙、ブライアン・クランストン、サリー・ホーキンス、ジュリエット・ビノシュ、
デビッド・ストラザーン、エリザベス・オルセン、CJ・アダムス、カーソン・ボルド 他 出演
ギャレス・エドワーズ 監督作



<感想>
いやぁ、なんなのさ、いったいなんなのだ、
ギャレス・エドワーズ監督のゴジラ愛ったら、なんなのよ(笑)
はい、物語的にはつっこみどこ多いですよ、だって、
日本と言い放っているこれ見よがしに富士山が目の前にあるあの場所は
どこからどう観ても東南アジアチックな場所にしか観えないし
ブライアン・クランストンさんにしてもビノシュ姐さんにしても
渡辺さんにしてもですね、誰が演じてもいいようなとりあえず
セリフ言えばいい的な役柄でしかなかったし、唯一アタシの大好きな
デビット・ストラザーンさんもいつも目をぎょろんとさせている
無表情な方でしかなく印象的な場面といえば芹沢博士な渡辺さんに
父の形見の時計をみせられて「ヒロシマか」と言うくらいで。
そう、芹沢博士にしてもその場面だけが見せ場でしかなく
とくに必要なかった役柄とも言えてしまうくらいだし
核物理学者なクランストンさんの息子で若き主役っぽい大尉を演じていた
アーロン・テイラー=ジョンソンさんにしても印象といえば
親とはぐれた子供と一緒にいてあげたりする列車の場面で
もう、いかにも『ゴジラ』的なウレシイ場面くらいだったので(謎笑)
その奥さんとか子供にしても特にコレといった印象ないのだけれど、
それでいい!のです。だって、ゴジラが主役だもん。
だって、ゴジラのバトルや火をふく場面を観たいんだもん(笑)
そう、これはもう、ある意味、正しい怪獣映画ですよ。
ゴジラをもったいつけて登場させ、まるで人がはいっているように動かし
ひじょーにお金かけていながらもアナログな愛しさを大切にする
監督のゴジラ愛、怪獣愛、敵とのバトル愛に思わず拍手(笑)
個人的には敵怪獣のムートーの子宮が光った瞬間とか
ゴジラとムートーが向かい合って戦う場面とか
火ふく場面、ゴジラの渋オヤジのような表情などツボがいっぱいで
地味に喜んで観ていました。もう、怪獣映画としては満足です。
そして、どうしてあんな怪獣になったのかというその存在そのものの深さも
ちゃんと感じられるので1本目の『ゴジラ』を思わせるものもありました。
そんなこんなで、夏休みには正統派な怪獣映画を観ませう。



*2014年8月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞




 「るろうに剣心 京都大火編」  2014年日本

<あらすじ>
かつて人斬り抜刀斎と呼ばれた伝説の人斬り、緋村剣心。刀を置き平穏な生活を送る剣心は、ある日、剣心から影の人斬り役を引き継いだ志々雄真実が京都でその名をとどろかせていることを知る。政府が派遣した討伐隊は志々雄を前に成すすべがなく最後の望みとして剣心に白羽の矢が立つ。志々雄の野心を阻止すべく剣心は京都へ向かう・・。 和月伸宏原作の人気コミックを基にした2012年の前作に続き原作のクライマックスともいうべき「京都編」を前後編で実写映画化したアクション大作の前編。
佐藤健、藤原竜也、江口洋介、伊勢谷友介、神木隆之介、
武井咲、青木崇高、蒼井優、田中泯、土屋太鳳、大八木凱斗、
三浦涼介、宮沢和史、小澤征悦、福山雅治 他 出演
谷垣健治 アクション監督
大内貴仁 スタントコーディネーター
大友啓史 監督作



<感想>
アクションは本当に素晴らしいです。
映画的な楽しさ、ハラハラしながら映像世界にはいっていけた。
そういう動きや映像は、香港映画は本当に素晴らしくて、 特にド兄さんこと
ドニー・イェンさんの映画は最高なので 彼の右腕というか分身とでもいうか、
そういう存在の 谷垣健治さまがアクション監督なんだもの、
そりゃ、アクションの場面は最高なのです。
だけれどどんなにアクション監督が素晴らしくても
それを体現してくれる俳優さんが動けないと意味がないけれど
前作と同じく主役の佐藤さんが素晴らしいのです。
彼は日本のアクション映画にとっての発見だと思う。
身体能力や瞬発力、体現力、見応えありでうれしい。
屋根走りとかド兄さんだー!って、テンションあがったわ(笑)
とにかく殺陣がすごくて楽しい。宗次郎役の神木さんなんかも
なかなか面白い動きだったし、田中民さんは渋カッコイイし
江口さんは相変わらず無駄にカッコイイ(笑)・・というか
刀のふりかたは脇が開いちゃってカッコ悪いのにすでにタバコ吸っている
その佇まいだけで華があってカッコイイのでヘタっぴでも問題なし(笑)
あと、思いのほか京都で剣心の刀を盗もうとして彼に出逢い
田中さんに育てられていた操を演じていた 土屋さんの動きがよかったし
一瞬だけ刀職人として登場してくれた濱マイクよろしくノブさんこと
中村達也さんとか渋くてドキドキしたり登場人物たちは皆よくて
アクション場面と登場人物だけでも話は盛り上がるのですが・・

でも、なんだろう・・・
特に今回は二部作として撮っているからなのだろうか
この結末は続きを観てね・・という感じの作り方で
観終わった時の不完全燃焼さ半端なくって(涙)
だって、映画を観に に行くというのは、その日の人生をつかう。
明日はもう、観ることが出来ないかもしれない。
続きを観ることが出来るような状態ではないかもしれない。
悲観的なことを言えば、生きていないかもしれないのです。
どこかへ出かけ、お金を払い、映画館で映画を観る。
その1本の、そのひとつの作品に出逢うために。
確かにアクションだけでもチケット代を払う価値はあるのかもしれない。
だけれど、続きを観なくてもいいように、
その映画はその映画として決着をつける作品にしなければ
それは、映画ではない、連続テレビドラマになってしまうよ。
作っている人はまとめて撮影しちゃうから
そこのところの感覚に観る側との温度差があるんだと思う。
製作費もまとめて撮ってしまった方がいいだろうし
原作は読んだことないけれどこういう映画は
原作ファンの方もいるのだろうから一粒で美味しい的な
一石二鳥的にふたつにわけるのかもしれないけれど、
なんだか、せっかくアクションがよかったのに・・って。
というか、 一番の敵である藤原さんとの場面が少なすぎるというか
もう少し彼の動きが観たかった。動いたら凄そうなのになあ。

とかなんとか、色々グチりながらも・・・
なんだかんだと谷垣さんのアクションチームの仕事は最高だし
それを体現してくれた俳優さんたちやカメラワークもなかなかよいので
結局は次回も頑張って楽しみに観に行ってしまうのでしょう(苦笑)



*2014年8月の或る日、横浜ブルク13にて鑑賞




 「ドラッグ・ウォー 毒戦」  2012年香港、中国

<あらすじ>
中国・津海。爆発事故があったコカイン製造工場から車で逃亡した男が衝突事故を起こし意識不明のまま病院に担ぎ込まれた男テンミン。その病院には捜査の末自らの体内にドラッグを隠した運び屋たちを連行した中国公安警察の麻薬捜査官・ジャン警部の姿があった。監視中の刑事が眼を離した隙に病院から逃亡しようしたテンミンだったがジャンと女刑事・ベイに捕えられ中国国内での覚醒剤密造の罪は間違いなく死刑判決が下るということ。爆発事故で家族を失い恐怖に怯えるテンミンは減刑と引き換えに捜査協力することを承諾するが・・
ルイス・クー、スン・ホンレイ、クリスタル・ホアン、ハオ・ビン、ケビン・タン、
ウォレス・チョン、グオ・タオ、リー・チン、ガオ・ユンシャン、リー・ズェンチ、
ラム・シュー、ラム・ガートン、ミシェル・イエ、エディ・チョン、ロー・ホイパン 他 出演
ワイ・ガーファイ、ヤウ・ナイホイ、リーケル・チャン、ユ・スィ 脚本
ジョニー・トー 監督作



<感想>
いやぁ、いきなりゲロっぴから始まるこの映画。
そこからじりじりと燃えそうで燃えない小さな火種が燻っているような
麻薬捜査官のジャン警部とコカイン製造工場の工場長テンミンの
互いの探り合いの独特な緊迫感がラストにパチンと弾けていく感じです。
いつものトーさんの映画だったら、もう少し笑いもあるというか
ハードボイルドな中にも思わずクスっとさせたり
食欲そそる美味しそうで脂チックな香港飯が登場してきたりと
人肌のような匂いを感じるのだけれど、この映画はいい意味で無臭というか
ヒンヤリしていて渇いていてハードボイルドどころか
固く茹でまくって、ついには粉々になっていくという
空気一切ないよ、カチンコチンだよなボイルドさです。

ルイス・クーさん演じるテンミンは死刑になりたくないので
捜査に協力したりつつも、なんだか怪しい。でも彼が涙を流した場面では
一瞬、『BIUTIFUL ビューティフル』の主人公のように(あの映画でも工場が・・)
悪いヤツじゃないけれど生きるためにこういう世界に足をつっこんでしまった・・
という感じなのかなと思ったけれどラストまで観るとその気持ちも揺らぐ。
だけれど、彼の自分の利害だけで、その場、その場を生きようとする
卑怯なくらいの生への執着は人間そのもののような気もしてくる。

それにしてもですねぇ、ジャン刑事を演じたスン・ホンレイさんは渋いっ。
アタシは『たまゆらの女(ひと)』の時にコン・リー姐さんが
汽車の中で出逢う獣医さんを演じた時のスン・ホンレイさんの印象が
とっても深く心に残っていて、あの時の無骨だけれど
心根のいい奴な感じの屈託のない笑顔が忘れられないのだけれど
今回の映画ではたった一度も笑顔を観ることが出来なかった。
いや、笑ってはいたけれど、あれは"ハハ"になりきっていた時ので
ジャン刑事としては一度も笑顔はない。
同じ笑顔でも役柄によってまったく違う印象の魅力を
自然に味あわせてもらえて観客としてシアワセだった。

そうして、クライマックスの銃撃戦。テンミン、ジャン警部、
麻薬捜査官組、香港7人衆(雪ちゃんっ!!・愛)が入り乱れ
聾唖の兄弟の撃ちっぷりも含めてカタルシスあがりまくりで
どうにかなりそうなガオです(笑)

ラストは一見、悪いことをしたら死刑だよ、みたいな
悪はいかんよねみたいな単純さにも観えつつも
コカイン製造していた彼が液体の薬物を注入されて・・という
ザクっという音のするようなアイロニーを感じたりしたのでした。



*2014年6月の或る日、シネマジャック&ベティにて鑑賞




 「ソウルガールズ」  2012年オーストラリア

<あらすじ>
1968年、オーストラリア。アボリジニの居住区に暮らすゲイル、シンシア、ジュリーの三姉妹と従姉妹のケイは幼いころより歌が好きでカントリー音楽を歌いながらスター歌手になることを夢見ていたが根強く残る差別からコンテストに出場してもあからさまに落選させられる。そんな状況から抜け出したいと思っていた矢先、自称ミュージシャンでソウル狂のデイヴと出逢いソウル・ミュージックを叩きこまれることになる。そして・・。脚本家の一人トニー・ブリッグスがかつて"サファイアズ"を結成していたという母の昔話を偶然知り舞台のために脚本を書き下ろし、その後ウェイン・ブレアが監督して映画化した実話。
クリス・オダウド、デボラ・メイルマン、ジェシカ・マーボイ、
ミランダ・タプセル、シャリ・セベンス 他 出演
キース・トンプソン、トニー・ブリッグス脚本、 ウェイン・ブレア監督作



<感想>
思えばアボリジニという言葉と存在を知ったのが
『クロコダイル・ダンディー』という映画でした。
だけれど繰り返し描かれているのを観たことがないというのもあり
どことなくピンとこないでいたのでした。
時が経ち出逢った『ソウルガールズ』という映画。
予告のイメージでソウルミュージックがたくさん聴けそう!という
軽いノリで観に行ったのだけれど これは、とんだ大きな宝のような映画に
出逢ってしまったという気分でいっぱい。
白人主義という以前に政府が肌の白いアボリジニの子を連れ去って
黒人社会を絶滅させようとまでしていたなんて信じられない事実や
人種差別、ベトナム戦争、キング牧師の暗殺など
シビアなことをきちんと描きながらも音楽がもつ
とてつもない深く大きな魂を描ききった音楽映画の傑作でした。

ゲイルたちが最初にふれた音楽はカントリー。
彼女たちはそれを美しい声で歌っていた。
そんな時、デイヴと出逢いソウルミュージックを歌うことに。
そうして、「カントリーもソウルも同じ喪失を歌っているけれど
カントリーは喪失した思いを抱え故郷に戻って歌うけれど
ソウルは喪失をとり戻すために、そこから這い上がって
失ったものを自分の手でつかみとろうとする歌だ
その切なさをどんな音にもこめろ!!」みたいなことを
酔っ払い自称ミュージシャンなマネージャーなデイヴが言った瞬間
アタシ、うおーって涙流しっぱなしになっちゃって大変だった。
このデイヴ役のクリスさんってどっかで観たことあるな思ったら
『パイレーツ・ロック』で1日だけ結婚して実は・・という
あの可哀想な彼だった!あの映画も軸になっているのが音楽だった。
というか彼が演じたサイモンがそういう役だったよね。
傷心の時も音楽が助けてくれたみたいなセリフもあったし。
『ソウルガールズ』ではお酒ばっか飲んで肝心な時に酔っ払って
ダメダメなのに、音楽のことや人のことはちゃんと観ている人で
本音を言い合えケンカも出来る理想の女性ゲイルへ渡した手紙と
その後の展開とか、もうさ、出来過ぎだろって思いつつも
そのままスッポリとハマって泣きに泣いたし・・というか、
何もかも実話なのかよって、もう、ビックリだしね、驚きですよ。

負傷した兵士の傷口に手をやり出血を止めようとするケイに
「その黒い手をどかせ」と若い兵士が息も絶え絶えなのに言った時に
なにか怒りとかよりも哀れみに似たものを感じてしまった。
差別される側よりも差別する人の脳みそや想像力の狭さが
そんな時にまで、そんな風に思って、言葉として発してしまうなんて
恐ろしいね、人間の恐ろしさには限界がないのかもしれない。
でも、それに気が付き互いに思いやりや応援の気持ちを持って
支え合って生きようとする魂にも限界はないはず。

生まれおちた時から、その人はその人だけ。
ひとりひとり、かけがえのない存在。
誰でも自由に生きる権利があり、愛され愛する権利がある。
それを、その当り前のことを人は忘れてしまうから、
忘れないように、信じるように、ソウルが生まれたのかもしれない。
晴れた日にも大雨の日にも真夜中にも朝にも似合う。
まるで生きているような、生きもののような音たち。
久しぶりにサントラ欲しくなっちゃった。絶対買うぞ。



*2014年4月の或る日、シネマジャック&ベティにて鑑賞



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