「父の初七日」 (2009年・台湾)
<あらすじ>
突然の父の危篤の報せに、台北で働くアメイは故郷の病院へと駆けつけるが父は既に息を引き取っていた。母の死後、男手ひとつで自分たちを育ててくれた父の亡骸に付き添ってアメイと兄のダージは自宅へと戻る。やがて、道士でもある叔父・アイーの指図で伝統的な葬儀が執り行われることになり、従弟のシャオチュアンはその成り行きをビデオに収めることを決めるのだった・・
ワン・リーウェン、ウー・ボンフォン、チン・ジャーシャン、 チェン・タイファー、タイ・パオ
他 出演
ワン・ユーリン、エッセイ・リウ 監督作
<感想>
邦題が初七日というタイトルなので七日目のことなのかと思っていたら、そういうのではなくて、亡くなってからお葬式の時までの七日間のことらしかった。それは道教という宗教のやり方で占いで何日か決めていくらしいので、七日間でも長いのに、それ以上だったらどうなるのだろう。だって、その間中、紙銭を燃やし続けたり、泣けと言われたらご飯の途中でも、歯を磨いている途中でも泣かなければいけないんだもん、
それを真剣にやっている姿は笑ってはいけないかもだけれど、ちょっと滑稽でもあって何度もクスクスと笑ってしまう。
道教の道士でもあるアイーと彼になついているシャオチュアンの存在が印象的。アイーは詩を書いていて、標準語と台湾語だと詩の書き方そのものが違っているところとか面白かった。その詩をふたりが「運命と社会のクソったれ、オヤジでもないのに威張るな」と夜の畑の中で歌うようにテンポよく声にしながら歩いていく場面が好き。
すべてが終わり駅のホームで列車が来るのを座って待っていて、シャオチュアンがアイーの真似をしていつの間にかノートを用意して言葉を書きとめるのを眺めていたら、もしかしてジャームッシュはこの映画を観て『パターソン』を思いついたのではないかと勝手に勘ぐってしまった。
この映画の主人公的な存在でもあるアメイとお父さんとの思い出の場面がちょこちょこ描かれている。特に遺影の合成写真(この写真を作るまでのところも面白い)を彼女がバイクにのせて走っている時に通り過ぎる同じ橋の途中で、生前お父さんに粽をもらって食べたことなどが蘇る場面はとても丁寧に描かれていた。
ラストの空港の喫煙場所でアメイが急激に悲しみにおそわれる姿は、それだけ彼女にとっては素敵なお父さんだったんだなという証でもあるのだと思い、悲しみの感情の深さを思う。忘れることはなく、ふとした瞬間に湧き出てくる思いがある限り、これからもアメイの中でお父さんは生き続けるのでしょう。
終始、映像の色合いがなんというか色セロファンを覗いているような感じで、ちょこっとチープなんだけれど、それが全体をふんわりと温かく包んでいるみたいで、どことなくチグハグな音楽も含めとても可愛いらしい映画だった。
GYAO!にて鑑賞 |